第96回 高度化するAIに社長はどう向き合うか

AIがエージェント型へ進化するいま、経営とAIの接点をどのように持つかが、今後のAI活用の成否を分けます。
「AIを使わなきゃいけないのはわかっている。でも、正直どこから手をつければいいのかわからない」
そんな声を、最近何人もの経営者の方からいただきます。
2022年末にChatGPTが登場して以降、生成AIの進化は加速する一方です。GoogleのGeminiやNotebookLMなど新たなサービスも次々と登場し、ビジネスの現場でAIに触れる機会は急速に増えています。
これまでは、「質問すると回答が返ってくる」というチャット型の利用が主流でしたが、ここにきて、チャット型に加え、自律的に仕事をこなす「エージェント型」のAIが急速に台頭してきました。エージェント型AIとは、目的を伝えると、自分で計画を立てて手を動かして仕事をこなすAIのことです。
ChatGPTは2025年7月に「エージェントモード」を発表し、情報収集から資料作成までを自律的にこなせるようになりました。Anthropic社のClaudeも、2026年に入りプログラミング知識がなくてもファイル整理やデータ分析を言葉で任せられる「Cowork」を発表しています。主要なAIサービスが軒並みこの方向に舵を切っており、AIは「聞けば答えてくれる存在」から「仕事を任せる存在」へと変わりつつあるのです。
では、中小企業の社長は、この変化にどう向き合えばいいのでしょうか。
「自分でやる」には、もう限界がある
チャット型のAIであれば、検索の延長として「とりあえず聞いてみる」ことで恩恵を受けることができました。プロンプトの記述などのコツは必要ではありますが、直感的に操作しやすく、既に使い倒しているという社長も少なくないでしょう。
しかし、エージェント型のAIはやや事情が異なります。データの準備、業務プロセスへの組み込み、出力結果の検証、そして何より「何をAIにやらせるべきか」という設計そのものに、専門的な理解が求められます。
もちろん、AIに詳しい社長もいらっしゃるでしょう。しかし多くの場合、社長の本業は経営そのものです。顧客対応、資金繰り、人材マネジメント、事業戦略の立案と実行……これだけの業務を抱えながら、日々進化するAI技術を学び続け、自社に最適な形で構築・運用し続けることは、時間的にも技術的にも無理があります。
加えて、実感としてお持ちの方も少なくないと思いますが、チャット型AIとの壁打ちですらも、深く掘り下げようとすると意外に時間がかかります。何度もやり取りを重ね、方向を修正し、出力を吟味する。便利であることは間違いないのですが、「片手間で使いこなせる」というレベルは、すでに超えてきているのです。
進化するAIと向き合う4つの選択肢
では、社長自身が全てを担うのが難しいとすれば、他にどのような選択肢が考えられるでしょうか。大きく分けると、次の4つがありえそうです。
① AIに強い人材を雇う
一見すると最も直接的な選択肢です。AIの専門知識を持つ人材を社内に迎え入れれば、日常的にAIの力を経営に取り込めるように思えます。
ただし、これが可能なケースは実は限定的かもしれません。AIの技術に長けた人材が、必ずしも自社の経営課題を深く理解しているとは限りません。技術的には優れた提案であっても、「うちの会社でそれが本当に必要なのか」「顧客にとって意味があるのか」という判断ができなければ、せっかくの技術が空回りしてしまう可能性があります。
逆に、経営判断もAI活用も高度に理解できる人材は、当然ながら市場価値が高く、一般的な中小企業の給与水準では採用が難しいケースも少なくないでしょう。
② 既存社員にAIを学ばせる
社内の人材にAIスキルを習得させる方向性です。自社の業務を知っている人間がAIを使えるようになれば理想的ですが、習得には相応の時間がかかります。特にエージェント型AIの活用は、単なるツールの操作方法を覚えるレベルではなく、業務設計やデータ整備の考え方まで含めた学びが必要です。
また、学んだ社員がAI活用の提案をしても、経営側がその意味を正しく理解できなければ、「よくわからないから保留」となってしまうこともあります。経営判断とAI活用の間に「言葉の壁」が生まれてしまうリスクは、見落とされがちです。
③ 経営向けAIツールを導入する
市場には、経営者向けのAIツールが続々と登場しています。財務分析、需要予測、顧客管理などを自動化・効率化してくれるサービスは確かに存在し、導入のハードルも下がりつつあります。
ただし、こうしたツールは「汎用的に設計されたもの」であるがゆえに、自社固有の事情や業界特有の商習慣にはフィットしないことがあります。また、AIツール市場はまだ発展途上であり、サービスの質や信頼性はまさに玉石混交です。導入してみたものの期待ほどの効果が得られなかった、という声も少なくありません。
ツールそのものが悪いわけではありませんが、「導入すれば解決する」という発想だけでは、かゆいところに手が届かないまま終わるリスクが残ります。
④ AIに詳しい外部パートナーに頼る
もう一つの選択肢は、AI活用に長けた専門家やコンサルタントなど、外部のパートナーに相談する、という方法です。雇用ほどの固定コストを負わずに、「何にAIを使えば効果的か」を一緒に考えてくれる相手を得られることは、大きな利点です。
ただし、ここで気をつけたいのは、社長のAI活用を加速させるためには、単にAIに詳しいだけでは十分ではないという点です。パートナーがいくら最新のAI技術を知っていても、社長が本当に解決したい経営課題を理解し、解を導けなければ、提案は的を射ないものになりかねません。「技術的にはこれが最適です」と言われても、「で、うちの売上にどう効くの?」という問いに答えられなければ、結局は社内にもう一人翻訳者が必要になってしまいます。
つまり、求めるべきは単なる「AIの専門家」ではなく、経営的な視座とAI活用の知見を併せ持ったパートナーです。自社の事業構造や経営課題を理解した上で、「この課題にはAIをこう使えば効果が出る」と具体的に提案してくれる存在。そのようなパートナーを見つけることができれば、雇用や自前でのAI構築とは異なる形で、経営にAIの力を取り込む道が開けます。
AIを自ら使いこなすというより、AIを使いこなせ、かつ経営の知見もある人に使い方を相談する・委託するというのが、変化の激しいAIの活用レベルを引き上げるためには、意外と現実的な解になるのではと考えられます。
大切なのは「接点」の設計
4つの選択肢を概観しましたが、いずれの方法をとるにしても、本質的に問われているのは同じことです。それは、「経営判断」と「AI活用」の接点をいかに効率的・効果的に確立できるかということです。
AIは道具です。どんなに高度な道具であっても、それを何のために、どう使うかを決めるのは経営者自身の判断です。一方で、その道具の可能性と限界を正しく理解し、自社の経営課題に結びつけるには、AIの知見を持った存在が不可欠です。
経営判断がわかる。AIの使い方もわかる。そしてその両方を、自社の文脈に落とし込める。そのような「接点」を自社のどこに、どのような形で設けるかが、これからのAI時代における経営の要になっていくのではないでしょうか。
AIを、付加価値の向上や効率化によるコスト削減など、どのような目的で活用するかは企業によって異なるところです。しかし、顧客にとって新たなメリットを作り、信頼と実績を積み上げるために大きな可能性を秘めているのは間違いなく、検討もしないまま無視をし続けるというのはあまり得策ではないでしょう。というのも、AIの進化は速く、「もう少し様子を見てから」と思っているうちに、周囲との差は開いていくからです。
完璧な正解を求める必要はありません。まずは「自社にとって、AIとの接点をどこに持つか」という問いに向き合うことが、第一歩になります。
あなたの会社では、AIとの「接点」をどこに置きますか。ぜひ一度、立ち止まって考えてみていただければと思います。

著者プロフィール
トラスタライズ総研株式会社
代表取締役 池尻直人
社外経営企画室長・経営企画パートナー。
独自の「トラスタライズ手法」を用いて、見えない信用や信頼を、目に見えるカタチに変え、対価へと変えることで多くの経営者から注目を集めている。企業経営において社会・顧客双方の価値の創出が求められる時代にあって、顧客企業が持続的に成長し、信頼を築き上げていけるよう、経営企画機能を伴走型で提供している。

著者プロフィール
トラスタライズ総研株式会社
代表取締役 池尻直人
社外経営企画室長・経営企画パートナー。
独自の「トラスタライズ手法」を用いて、見えない信用や信頼を、目に見えるカタチに変え、対価へと変えることで多くの経営者から注目を集めている。企業経営において社会・顧客双方の価値の創出が求められる時代にあって、顧客企業が持続的に成長し、信頼を築き上げていけるよう、経営企画機能を伴走型で提供している。

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発売元:日本コンサルティング推進機構

