第2回 ケーススタディ:「信頼」による対価獲得① -製品の信頼性の活用

製品の”信頼”を可視化・証明し、顧客の価値と自社への対価に変換せよ

 前回のコラムでは、「信頼」を戦略的に活用し、対価を得ることの可能性について述べました。しかし、ここでいう企業が「信頼」から対価を得る、とは具体的にどのようなことなのでしょうか。製品、サービス、社会貢献の3つの視点から、3回にわたり実際の事例を通して探っていきましょう。まず最初に取り上げるのは、製品の信頼性を可視化して価値に変えるアプローチです。
(注:以下のケーススタディは実際の事例に基づいていますが、公開コラム用に簡略化しています)

目次

品質へのこだわりと苦境:老舗工務店のケース

 一口に製品といってもその種類は様々ですが、今回はその中で最も高価といっても過言ではない「住宅」の信頼活用に関する事例を取り上げます。関東地方で30年以上にわたり住宅の建築を手掛けてきたN工務店は、地域に密着したいわゆる中小企業であり、デザイン性の高い住宅を手掛けることに定評がありました。また、住む人に長く使い続けて頂ける家づくりを重視しており、施工時の品質についても強いこだわりをお持ちでした。

 この施工時の品質を担保するために、N工務店では決められた作業を決められた通りに実施できるようにと作業標準書の整備や職人の教育に力を入れているほか、同業他社対比2倍以上にあたる、約10の主要工程での検査を徹底していました。つまり、N工務店が手掛ける住宅の信頼性そのものは、もともと非常に高いレベルにあったのです。

 しかし、近年の各種コストの増大や他社が仕掛ける価格競争の影響により、N工務店の業績は徐々に後退しつつありました。目に見えるデザイン性はともかく、施工品質については、実際に住宅を購入する一般の顧客がその良しあしを購入前に正確に判断することは困難なケースが大半です。ただ信頼を積み上げるだけでは、それをすぐに対価に変えることは難しいだけでなく、他社よりも高いコストを支払うことにもなりかねないため、戦略的な「ひと工夫」をして対価を得られる勝ち筋を作らなければなりません。

 逆に言えば、この「ひと工夫」を適切に行い、積み上げた信頼の可視化・訴求に力を入れることができれば、積み重ねてきた「信頼」は経営資源として大きな力を発揮し、対価をもたらす可能性が充分にありました。

「信頼」を対価に変えたメカニズム

 N工務店の例では、自社で行ってきたきめ細やかな検査に加え、第三者による監査体制を整え、全ての物件の建築時に監査を実施し、基準をクリアしていることの証明書を発行してもらうことになりました。これにより、各物件の商談時に、より客観的に施工品質の高さをアピールできるようになったのですが、それ以上に、住宅を引き渡す際に現場での作業の記録と第三者の証明書を合わせて提供できるようになったことが、より大きな価値につながりました。

 どういうことかといえば、住宅を購入したオーナーに、その住宅が確かな検査体制のもと建築された施工品質の高い物件であることを証明する証拠資料を提供できるようになったということです。高価だけれども本当の価値がわかりにくい住宅という商材について、少なくとも新築の段階では確かな品質を備えていたことを証明できることは、オーナーにとって資産価値の下落防止、売却時の価格下支えという非常に大きな価値につながります。

 この、施工品質の証明の仕組みは、多くのオーナーに喜んで受け入れられました。その結果、他社は競争の末に低価格での受注を余儀なくされるような状況でも、N工務店は自社の施工の価値を説明しながら、他社より高い提示価格を受け入れてもらえるようになりました。もちろん、その価値には、優れた施工品質そのもののみならず、それを担保するプロセスや証明書がオーナーにもたらす価値が含まれることは言うまでもありません。N工務店は、第三者監査の仕組みを整備し、品質の高さを証明する、つまりは「信頼」を可視化することで、対価を得ることに成功したのです。

製品の「信頼」を可視化して価値に変える

 この事例が示唆するのは、「信頼」を可視化・証明し、顧客の価値にもつなげることで、企業はより多くの対価を得ることができる可能性がある、ということです。特に取り扱う製品が高額であり、信頼性の有無が顧客にとって大きな影響を与える場合には、その可能性は大きく広がることでしょう。

 N工務店の場合は、製品自体の信頼性はもともと高い状態でしたが、企業によっては製品自体の信頼性の向上と、その信頼性の可視化・証明・訴求の両方のアプローチが必要になる場合もあります。扱う製品の特性や原資の大小により、信頼性を向上させるための行動や、証明・訴求のための手法を戦略的に組み合わせていく必要があるのです。

 当社では、製品の信頼性訴求を「トラスタライズ」の1つの領域と捉え、より多くの企業に提言できる手法として研究・体系化しています。信頼に足る製品を提供する企業が正当な対価を得て大きく成長することで、よりよい社会を作り出す一助になる、それが当社の願いです。そんな当社の「トラスタライズ・コンサルティング」にご興味のある方は是非、下記のセミナー案内をご覧いただければ幸いです。

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