第4回 ケーススタディ:「信頼」による対価獲得③ -社会貢献と対価の両立

企業自体の”信頼”を高める取り組みは、本業との連動と社内外の目線の違いを意識して進めよ

 ケーススタディの3例目として、企業の社会貢献によって得られる「信頼」を対価に繋げるためのポイントを考えていきましょう。近年、脱炭素をはじめとするESG・サステナビリティ領域における議論の活性化により、企業に対する持続可能な社会形成への貢献期待は高まる一方です。このような期待に応え、次世代のために社会貢献活動に力を入れる企業は、少なくとも顧客や社会の期待を故意に裏切ることはしないだろうという点で「信頼」できるように見えます。しかし、本業と直接関係のない社会貢献活動は、直接対価に結び付けることが難しい(または非常に時間・コストがかかる)場合も少なくありません。ここでは、社会貢献を重視する企業がまず検討すべき方策の一例について取り上げます。
(注:以下のケーススタディは実際の事例に基づいていますが、公開コラム用に簡略化しています)

目次

持続可能な社会実現への貢献は、本業が盤石であればこそ

 自動車部品の製造を手掛けるF社は、本業で得た利益を地域に還元し、社会の発展に貢献するという創業者の強い想いのもと、本業以外の部分での社会貢献活動に力を入れていました。例えば、地域への植林、河川の清掃といった環境保全活動や、経済的に困難な状態にある子供への寄付といった活動には、惜しみなく協力するといった具合です。こうした活動を長年積み重ねてきた結果、社会に大きく貢献している立派な企業として、地域で評価されていました。

 しかし、本業においては、原材料費や人件費等のコストの高騰や、安い海外製品の増加による価格競争の激化により、急激な減益に悩まされるようになりました。その結果、これまで力を入れてきた社会貢献活動も一部縮小・休止という、苦渋の決断をするに至りました。F社が積み上げた自社の「信頼」の大きさは地域の誰もが認めるところですが、それはあくまで本業での儲けがあってこそのものだったのです。

 長年にわたり行ってきた支援の縮小・休止を申し入れた際、相手の多くはF社の事情に理解を示し、これまでの協力に感謝を示してくれました。しかし、実情として困った表情を示される場合もあり、本業の苦しい状況とあわせ、F社の担当者は非常にやるせない気持ちになったといいます。企業経営を通じて社会貢献を図る場合、まずは事業が盤石であることが重要なのは言うまでもありません。そのうえで「事業を通じた社会貢献」の観点を強く意識した経営を行うことで、顧客・社会・自社の3者が持続的に成長・発展していける絵姿を目指していくのが望ましいといえます。

本業を通じた社会貢献を意識し、戦略的に実行・訴求すべき

 F社の場合は、この苦境を乗り越えるために、まずは自社の製品の特長やその訴求の仕方をもう一度見つめなおすことにしました。F社が手掛けているのは自動車の部品であり、これまでは必要な品質をなるべく低コストで充足することに終始しがちで、付加的な性能や、ましてや製品自体の社会貢献などは二の次になっていました。しかし、顧客やエンドユーザー、そして社会から見たときに自社の製品が与えうる価値を徹底的に洗い出した結果、「品質 vs コスト」の単純な二元論ではなく、顧客、社会、そして自社にとっての価値と経済性を両立しうる領域があることがわかりました。

 顧客・自社・社会の価値・経済性をいずれも高められる道筋、というのはなかなか見つけにくいものですが、うまく見つけることで強力な勝ち筋にすることができます。F社の場合は、製品自体の重量を大きく軽減する形で設計を見直すことでこの勝ち筋を見出し、業績を改善させました。

 製品の重量が軽くなると、それぞれ次のような価値に繋がります。

  • 自動車メーカー:車全体の重量軽減により燃費性能を向上できる。また、資源消費やCO₂排出抑制により自社製品の環境負荷を低減できる
  • 車のエンドユーザー:ガソリンの消費抑制を実現でき、ガソリン代を抑えることができる。加えて、人にもよるがCO₂削減や資源節約など環境保護に貢献した満足感を得られる
  • F社自身:使用する原材料の削減により原価を抑制するとともに、顧客が享受したガソリン代抑制効果の一部を価格に上乗せすることが可能になる
  • 社会:資源効率の向上や、燃料消費の抑制によるCO₂削減などに寄与する

 ここで注目したいのは、F社が追求したのは軽量化であった一方、顧客や社会が評価したのは軽さそのものではなく、それにより生まれるガソリンコスト低減や環境負荷抑制だったという点です。「自社が追求すべきポイントと、顧客・社会が重視するポイントは、相互に関連するものであっても必ずしも一致しない」のです。

 このことは一見、当たり前のことのように見えますが、本業と社会貢献の両立を目指す企業であっても、自社の目線と顧客・社会の目線が実は合っていないケースは非常に多いのが実態です。この目線合わせが出来ていない状況で、自社が追求しているポイントだけを訴求しても、本業の売上や利益にはなかなか繋がらないのは明らかなのですが、現場目線だとどうしても製品自体の新規性を訴求したくなるのでしょう。F社のケースでは、製品が軽量だから信頼を得られたのではなく、環境に貢献する製品を作っているから信頼されたということです。

 社会貢献を通じて「信頼」に値する企業であることを示しつつ業績につなげたい場合、外部に向けては顧客のメリットと社会への貢献をうたいつつ、内部の商品企画や技術開発においては製品や技術・プロセス特性の管理・改善を行うという2つの目線が欠かせません。「自社が何をすれば、社会・顧客にとってそれぞれどのような価値が生まれるのか」というストーリーを、訴求の面でも社員教育の面でも徹底的に明確化し、相手に応じて使い分ける必要があります。

企業自体の「信頼」を対価に変えていくために

 社会への貢献の観点から訴求を行う場合には、ある特定の観点のみの訴求になっていないか、ほかで負の影響を生み出しているのに良い面だけを切り出して訴求していないか、といった点でも注意が必要です。都合の悪いことは伏せて良い面だけを訴求していると、「グリーンウォッシュ」などと呼ばれ、逆に大きな批判を招くということも起こりえます。

 今回は社会貢献の観点を取り上げましたが、企業自体の「信頼」を形作る要素はそれだけにとどまりません。例えば、過去の取引で困ったときに助けてくれた、営業担当者の人柄がいい、といった本業のなかでの要素も「信頼」を形成する要素にはなるでしょう。また、いずれの場合も相手に認知されなければ意味がありませんから、自社のPRを戦略的に行うことももちろん重要です。ただし、どのような場合であっても、「対価を得る」ことを目指すならばどんな「信頼」をどのような形で積み重ねるか、そしてそれをどう訴求し、どのような形で対価につなげるか、というストーリー・プロセスを、戦略的に設計・実行することが間違いなく重要になるのです。

 当社は、独自の「トラスタライズ・コンサルティング」を通じ、「信頼」を対価に変える戦略・プロセスの検討・実行をご支援していきます。「信頼」に値する企業がそれに見合う対価を得て、社会貢献を継続・拡大させながら成長していく、そんな姿を「トラスタライズ・コンサルティング」を通じて実現することが、当社の願いです。

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