第6回 「信頼」で製品・サービスの価値を高める

製品・サービスの価値向上のために、”信頼”が顧客の利益に寄与できる領域を見極めよ

 前回、「信頼」から対価を得るための道筋は大きく3つあると述べました。今回はそのうちの1つ、顧客が抱く期待値を高めるやり方について、もう少し考えてみましょう。

目次

「信頼」で製品・サービスの価値を高める

 製品やサービスを購入するときに顧客が抱く期待値の大きさは、その顧客が払っても良いと考える金額、すなわち対価を左右する重要な要素です。この期待値という概念を、ここではさらに「顧客がその製品・サービスから得たいと考える効用の大きさ」と、「顧客が思い描く効用が期待通りに提供される確度」の2つに分解してみましょう。

 このうち前者の「顧客がその製品・サービスから得たいと考える効用の大きさ」は、裏を返せば自社の製品・サービスが提供する価値そのものといえます。ですから、当然のことながら顧客のニーズに合った製品・サービスの開発や、それを正しく伝える営業・PR活動を行うことが求められます。そのうえで、提供する価値そのものを高め、顧客に評価してもらう方策として、「信頼」という切り口でもいくつかの方向性があります。最もシンプルなのは「信頼」を重視する顧客層にアプローチすることですが、それ以外にも、「信頼」を用いて新たな価値を付与できるケースがあると当社は考えています。

 第2回で取り上げた工務店のケースはまさにこれにあたります。自社で住宅を建築する際、作業や品質チェックの過程を明確に記録をしておくことは、自社建築の信頼性を高めることはもちろんですが、その記録があることで、オーナーが将来その住居を売却することになった際の単価を上げられる可能性があります。「信頼」を目に見える形で担保しておくこと自体が、買い手に金銭的なメリットをもたらすことになるわけです。

 他にも、第4回で扱ったような、社会と顧客の価値を両立しうるポイントを見出すことができれば、社会貢献に寄与できる、という付加価値を得ることも期待できます。但し、「社会貢献に寄与」という要素が対価のアップにつながるかどうかは慎重に見極める必要があります。

 例えば大企業相手のBtoB商売を手掛けている場合などで、自社の製品・サービスを購入することによる社会貢献が、相手先が目指すものと明確に一致していれば、取引関係の強化につながるかもしれません。近年、脱炭素社会の実現に向けた動きが活発化する中で、CO₂削減を目指す大企業がサプライチェーン上流に位置する企業にも同様の目標設定・削減活動を要請する動きはその一例です。競合他社がCO₂削減の取り組みに消極的であるならば自社がそこに注力することで、顧客に対する訴求ポイントを1つ作ることができますし、逆もまた然りとなります。

社会貢献そのものを顧客価値にできるかは熟慮が必要

 ただ、この「社会貢献に寄与」という点が、支払い単価を引き上げるほどに評価される例は、BtoC、特に日本ではまだあまり多くないかもしれません。いわゆるグリーン消費エシカル消費といった考え方がこれにあたり、政府も啓発に力を入れていますが、こうした社会への貢献に対し追加でお金を払ってもいい、と考える消費者は、まだ主流というほどではないのが実態です。

 令和5年10月に消費者庁が実施したエシカル消費に関するアンケート調査(令和5年度消費生活意識調査(第3回)結果 (caa.go.jp))では、人・社会・地域・環境に配慮した購買行動を「よく実践している」、「時々実践している」と答えた人の割合は、全体の27.3%であり、それ以外の人は「あまり実践していない」、「全く実践していない」というのが現状のようです。

エシカル消費 実践 割合 調査

 一方で、エシカル消費を購入する際の価格許容度としては、約4~5割の人が0%~10%未満、約1~2割前後の人がそれ以上価格が割高であっても購入したい、とも答えています。実際の購入検討時に本当にそうなるかは不透明ですが、新たな価値の源泉になる可能性はありそうです。SDGsが学校教育の中でも取り上げられるようになるなど、これからの消費活動を担う世代には社会貢献を考慮することの認知が拡大していく可能性もあるため、今のうちから自社の製品・サービスに社会貢献の要素も明確に織り込んでいく、という判断もありえるかもしれません。ただ、製品・サービスの社会貢献要素が対価増に直接つながるか、という問いに対しては、答えは今はまだノーである可能性が少なくないことだけは留意しておきましょう。

 いずれにせよ、顧客にとっての価値や社会にとっての価値を「信頼」という切り口で検討し、それらをさらに高める方策を吟味していくことは、そのような「信頼」を備えている企業の業績を伸ばす道を拓くはずです。ただし、「信頼」を抽象的な概念としてざっくりと捉えてしまうと、その効果は限定的なものになってしまいます。新たな価値訴求の軸とするために、要素を適切に切り分けて、必要なアクションを戦略的に組み立てることが大切です。

 次回は、顧客の期待値を構成するもうひとつの要因である「顧客が思い描く効用が期待通りに提供される確度」について考察していきます。

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