第9回 製品・サービスの”生まれ”を可視化する ーブロックチェーンの活用例
第6回で述べた通り、”信頼”はうまく使えば製品・サービスの価値を高めることにつながります。今回はその具体策の1つとして、ブロックチェーン技術を用いた価値の可視化・証明についてご紹介します。
製品・サービスの透明性向上により対価を得る
製品・サービスの信頼性は、それが高価であればあるほど、そして買い手にとって失敗したくないものであればあるほど、その重要性が増します。重要性があるということは、それが対価にもつながりやすいということです。いわゆるプレミアム製品・サービスを販売する場合、それが本当にプレミアムであることを示すことは重要な要件の1つであり、さらにその証明力の強さが、対価の向上をもたらします。
これを実現するための手段の1つとして、近年登場したブロックチェーン技術の活用が期待されています。今回はこの、ブロックチェーン技術を用いた対価獲得の考え方についてご紹介します。
ブロックチェーン技術を用いたワインの”生まれ”の追跡
ブロックチェーンとは、ごく簡単にいえばデータの改ざんを非常に困難にするための技術です。取引の履歴やデータを、「ブロック」と呼ばれるデータ群に分け、それを連鎖させる形で記録するため、ブロックチェーンと呼ばれています。
ブロックチェーン技術においては、通常このブロックを複数の端末にコピーして保存し同期するため、外部から改ざんが試みられると他の端末の記録と合致しなくなってしまうため、容易に検出することができます。この特性による高い透明性とセキュリティにより、ブロックチェーンは金融取引、製品の追跡、契約管理など多くの分野で利用されています。
”信頼を対価に変える”という観点からは、このブロックチェーン技術を、製品・サービスの信頼性、つまりその製品・サービスが本当にプレミアムであることの証拠を示すために活用することで、その価値を高めることが可能になります。
例として、信頼性が重視される代表的な製品である高級ワインの場合を考えてみましょう。ワインの価値を決めるにあたり、ブドウの品種や製造工程における品質管理、配送時の温度条件といった情報は、その価値を左右する非常に重要な情報です。ブロックチェーン技術を用いることで、ブドウの収穫、醸造、瓶詰め、配送といった各ステップが確かに決められた通り実施されたことをデジタル上で記録し、改ざんが不可能な形で保存することができます。
より具体的には、各ステップで得られるデータ(例えば、収穫日、温度管理、醸造期間など)をブロックチェーンに記録し、消費者がQRコードや専用アプリを通じてこれらの情報を照会できるようになる、といった具合です。厳密には、販売店舗でボトルの中身を入れ替えてしまう、といった可能性は残りますので、絶対に安心、ということにはなりませんが、信頼性を大きく向上させることができるのです。
これはプロセスの透明性(トレーサビリティ)を向上させる例ですが、これ以外にも、ブランド品の真贋判定など、信頼がものをいう多くの分野でブロックチェーンの導入が進んでいます。製品・サービスの信頼性を向上させることは、その事実や価値を付与するのみならず、売り手側が描くストーリーをより強固なものにし、訴求力を高めることにもつながります。ワインの例であれば、「由緒ある畑で採れたブドウを使い、厳密に温度管理された環境の中で醸造・瓶詰された最高品質のワインです!」といった売り文句を、確実性を担保しながら使えるようになるでしょう。ブロックチェーン技術に裏打ちされた”事実”が背景にあることで、訴求にも迫力・信憑性が出てくるのです。
デジタル技術を用いて”信頼”を可視化する
このように、ブロックチェーン技術を用いることで、製品・サービスの”生まれ”をより証明力の高い形で可視化できる可能性があります。もちろん導入にあたり一定のコストはかかりますので、それを回収できる利益率の高い商材、具体的には先ほどのワインに加え、住宅、高級時計、アート、骨とう品といったプレミアム商品と特に相性がよく、こうした分野で導入する業界が増えているのです。
もちろん、単に可視化・証明するだけでは対価につながりませんので、その訴求を適切に行うことも必要にはなりますが、”信頼”を活用する上で、進化を続けるデジタル技術の活用は今後重要なカギになるといえるでしょう。
あなたの会社は、その製品・サービスの価値の正しさを、うまく証明・訴求できていますか?