第13回 脱炭素への取り組みを対価につなげるために(後編)
前回コラムでは、中小企業が対価獲得の観点で脱炭素に取り組み、対価を得るための具体的なステップのうち、可視化・目標設定・戦略策定の部分までをご紹介しました。今回はそれ以降の、排出削減・測定、証明、訴求といった部分におけるポイントを説明します。
ステップ3 排出削減・測定の実施
前回コラムでご紹介した「ステップ2-2: CO₂削減に向けた戦略策定」では、財務的余力が少ない中小企業がCO₂削減を進める場合は、金銭的なリターンを得られそうな領域から取り組むべきとお伝えしました。
それが設備の更新なのか、商材の改良による顧客側での削減貢献なのか、具体的な施策自体は会社ごとに検討すべき内容です。ですが、いずれの場合も、削減のための取り組みを確実に実施し、日々のオペレーションの中に織り込み、長期にわたりその効果を積み上げていくことが必要になります。これは、CO₂削減の施策のみならず、その成果を測定し、全社の削減効果を集計するといった関連業務にも同じことが言えます。
脱炭素の活動に着手し、将来的に継続・拡大していくためには、そのような関連業務も含め、再現可能な仕組みにすることが極めて重要になります。脱炭素分野の場合、後述の「証明」において、各企業において予め定められたプロセス(=仕組み)に則っているかが問われます。また、会社の成長に応じて削減活動や関連業務の範囲も拡大していくことになるのが一般的ですので、属人的な対応のままではいずれパンクしてしまいます。
専門家の知見が必要な部分はゼロにはなりませんが、そうでない部分は新入社員であっても同じように対応できるように、業務プロセスや教育制度・マニュアル等を整備したり、IT化を実施する必要があります。設備更新のように最初は投資や導入の対応が必要であっても、ひとたび業務で使われるようになれば、その後は日々のルーティンに落とし込まれる施策は多いはずです。
また、前回述べたようにCO₂削減量の算定も、考え方としてはシンプルですので、こちらも大部分を仕組み化することが充分可能です。最近では、従業員の作業を大きく削減するITツールなども登場していますので、活用を検討するのもよいでしょう。
ステップ4 削減効果の証明
投資やその後の日々の活動を通じてCO₂削減が進み、定量的に把握できるようになれば、訴求に最大限活用していきたいところです。ただ、特に脱炭素・CO₂削減の領域においては、その数値が本当に正しいかどうかを検証・証明することが求められるケースが一般的です。
本項では、単にCO₂を減らすことではなく、最終的に対価につなげることを目的としています。その観点からは、脱炭素のように証明することが一般的である領域については、多少費用をかけてでも証明はしっかりと行ったほうがよいでしょう。
具体的な証明方法としては、専門機関による第三者保証の取得が効果と費用(業者により違いもありますが)のバランスをみたときに適切ではないかと考えています。第三者保証では、CO₂削減に向けた考え方、自社が算定した数値やそこに至る算定手順、エネルギー使用量の証左となる請求書などの書類、そして場合によっては現地での実態調査なども含め、社外の目で決められたことが決められた通り実施されているかを監査されることになります。
この第三者保証の監査準備にはそれなりの工数が必要にはなります。しかし、先ほども述べた通り誰でも動かせる仕組みづくりは自社の成長戦略上も必要になりますので、算定手順書の整備や情報取得のオペレーションなどは、こうした外部の目・アドバイスも入れながら整備してしまうのが、多くの会社にとって適切であると当社は考えています。次のステップで述べる通り、脱炭素の領域は、この証明を前提とした訴求策が存在するというのも理由のひとつです。
ステップ5 訴求・営業活動への落とし込み
いよいよ最後のステップです。CO₂排出量の削減を達成し、その効果が客観的に証明できたならば、積極的に訴求していきましょう。現実には、CO₂削減を達成したにも関わらず、対価獲得という視点がそもそもなく、単なる社会貢献活動で終わってしまっているケースもよくあり、何としても避けるべきです。
脱炭素を対価につなげるための方策は大きく分けて2つあり、1つめは「営業活動における顧客への訴求のいち要素として織り込むこと」です。社会課題のなかでも脱炭素については理解やルールの整備が進んでいることもあり、いまや多くの企業がCO₂削減に取り組んでいます。そのため、「当社の新製品を使って頂ければ、御社のバリューチェーン全体/製品使用時のCO₂をこれだけ減らせます」といった形でストレートに効果を訴求しても、受け入れられる可能性があります。その際は、買い手の目線で「その製品・サービスを購入することで、”買い手が”どのような貢献をしたと見なされるのか」という伝え方をすると、より訴求力が高まるでしょう。
伝え方としては、例えば以下のようなストーリーにすることが考えられます。顧客価値と同等に、CO₂排出も自然とセールスポイントになりうることがお分かり頂けるかと思います。
<セールスストーリーの例>
〇〇にお困りではないですか / △△が実現したら良いと思いませんか。
実は、そのお悩みをすぐ解決できる方法があることをご存じですか。
当社の新製品、□□を使えば、簡単な操作で△△を実現できます。しかも、従来対比燃費性能が大きく向上しており、お客様が△△をなさる際のCO₂排出量を40%も削減できます。
これを使えば、〇〇を解決しつつ、御社が既に注力なさっている「20XX年までのCO₂排出量XX%削減」の取り組みをさらに加速させることもできます。価格は従来品と据え置きとなっており、まさに今の御社にぴったりの製品だと思います。
脱炭素を対価につなげるもうひとつの方策は、脱炭素社会の実現に向けて尽力・貢献している企業であることを社外から評価してもらい、自社の信頼性向上につなげる、というものです。脱炭素の領域では、目標設定におけるSBT(Science Based Targets)や、活動や開示の評価におけるCDP(Carbon Disclosure Project)など、実質的にグローバルスタンダードとなっているものが存在しています。このような評価の仕組みは、日本でも大手を中心に多くの企業が導入しており、それと同じ土俵で評価を受けることは、自社の取り組みの力の入れ具合を示すうえで有効です。
会社全体の信頼性を示すこの方策は、1つめのものと比べると対価獲得への効果は間接的なものにとどまるかもしれません。ですが、他者評価ということでより客観性が高いという点、バリューチェーン上の大企業も広く取り入れているといった点から、取引拡大につながる可能性があります。実際に、大手の自動車メーカーなどは、サプライチェーン上の企業にこのCDPの一定ランク以上の取得を直接要請しており、今後さらに重要性が高まっていくことでしょう。
「信頼を対価に変える」試みへの示唆
全3回にわたり、脱炭素をテーマとした対価獲得のステップについて論じてきました。具体的な施策は企業によって異なるものの、大まかな流れは共通しており、最終的な対価を強く念頭に置きながら、これまでに述べた各ステップの検討・実行を進めていくことになります。
そしてこのステップは、実は脱炭素のみならず、「信頼を対価に変える」という多くの試みにおいても転用可能です。脱炭素の場合、指標の定義や証明・訴求の仕方においてスタンダードが存在するという点を除けば、いずれも自社の信頼性を築き、戦略的に対価につなげる試みだからです。
信頼されるべき会社が正当な対価を得て発展していく。そんな手法を広く提供し、よりよい社会づくりに貢献していく当社の取り組みに、今後ともどうぞご期待ください。