第14回 ”信頼を対価に変える”手法の必要性とシナリオ
ここ数年で、SDGs・サステナビリティ・脱炭素・人権・従業員エンゲージメントといった新しいキーワードが出現・定着しており、その対応に頭を悩ませている経営者の方も少なからずいらっしゃることと思います。
この動きに合わせて、色々な経営論が提唱されるようになりましたが、当社はその実行にあたって、「信頼を対価に変える」手法が必要不可欠なピースになると考えています。今回は、持続可能な社会の実現を目指す際の、当社がトラスタライズと呼ぶこの「信頼を対価に変える」手法の重要性と、最初に押さえるべきポイントについてご紹介します。
持続可能な社会実現に向けた新しい経営論の出現
企業による社会への配慮の要請は半世紀以上前から存在していましたが、より積極的な貢献を強く問われることになったきっかけのひとつは、2015年に国連サミットで採択されたSDGs(持続可能な開発目標)にあったといえます。それまでは、社会の持続可能性向上に関する国際的な目標は、政府やNGO等が推進の主体であるケースが多かったのですが、SDGsにおいてはその共通目標の達成に向け、ビジネスセクター、つまり企業による貢献への期待が明記されたのです。
それを受けて、「企業が社会課題の解決に貢献するのは当然である」という流れが徐々に加速しはじめました。企業に対する要請は、ESG投資の主流化などに代表される通り、資金調達などオペレーションに直接関わらない部分にまで広がってきています。
冒頭にも述べた通り、持続可能な社会の実現に向けて様々なテーマが注目を集めており、各領域での議論が進んでいます。そして、このようなサステナビリティテーマを企業経営の中核に置き、事業の成長と社会の発展への貢献を同時に達成しようとすることを目指す、サステナブル経営、ESG経営といった新しい経営論が近年数多く生まれました。ビジネス書の置いてある本屋に行けば、こうしたキーワードを冠した「〇〇経営」といったタイトルの本は数多く見つかるでしょう。
このような動きは、社会にとって歓迎されるべきものだと思います。SDGsで要請されていることからもわかる通り、世界をよりよいものに変えていくうえで、企業の力は必要不可欠です。今や世界の大企業のなかには、多くの国の国家予算を上回るほどの売上高をもつところも珍しくありません。よりよい社会を実現しようとするときに企業が持つ力は大きいですし、企業自身がその担い手として、経営の中で強く意識するというのは大切なことだと思います。
実務におけるジレンマ
一方、このような新しい経営論をいざ実践に移そうとすると、そこには大きな壁が存在します。その壁とは、新たな経営手法の実施に必要なコストをどうやって賄うか、というものです。筆者も民間企業に勤務していた頃、「持続可能な社会実現への貢献拡大」に向けての実務を担ったことがあり、やはりこの壁に直面しました。
新しい経営手法の導入・実現には、当然ながらコストがかかります。商品に社会価値を付与しようと思えば開発費や追加のオペレーションコストが必要になることもありますし、社内に方針を展開しようと思えばそれなりの工数も発生します。その結果、新しい取り組みに必要となるコストが、実行後に追加で得られそうな対価に到底見合わない、というジレンマに陥るケースが少なくないのです。
一部の経営論では、このジレンマについては触れていないか、顧客が無条件に対価を支払ってくれるという前提のもとに構築されています。筆者が当時読んでいた経営論の本には、「日本において、”社会によってより良い商品・サービスであれば、追加の対価を支払ってもよい”と考える人が過半数を占める」という主張が、ある調査の結果とともに示されていました。
しかし、筆者が実務者であった際に実際に営業サイドに値上げの可能性を尋ねたところ、皆が口をそろえて「社会貢献というだけでは値上げは難しい」といいます。業界や商材により違いはあるとは思いますが、第6回でご紹介した消費者庁の調査や現在の日本の経済環境なども考慮すると、「社会に貢献すれば、消費者が喜んで、無条件にその分(もしくはそれ以上)の対価を払ってくれる」わけではないのは間違いないでしょう。「高い理想を掲げつつ、原資確保は営業任せ」では、実効性のある取り組みにはなりえません。
大企業であれば、ブランド構築やPRの要素も加味し、追加コストを余剰資金から負担する、ということはありえるでしょう。しかし、一般的な中小企業にはそれは難しいと言わざるをえません。中小も含めた多くの企業が経営を通じて社会に貢献する度合いを高め、”持続可能な社会”という理想を実現していくためには、その原資をいかにして用意するかが大きな課題です。
結局のところ、資金的余力の乏しい企業の場合には、経営の変革により得られる対価が必要コストを上回るか、少なくとも同等でなければなりません。融資や補助金などで当座の資金を賄ったとしても、本業の収益向上につながらなければ、結局コストが発生しつづけるだけになり、一過性の取り組みで終わってしまいます。社会への貢献度を高める経営を目指すならば、取り扱う商材の単価や数量の上昇など、何らかの形で顧客から受け取ることが必要不可欠なのです。例え、社会への貢献に対し無条件に追加費用を払おうとする顧客が少なかったとしても、です。
そのような状況においては、「自社がより社会に貢献できる企業になること」と「対価をより多く獲得すること」を同時に実現することを目指すことになります。しかし、顧客から無条件に対価が得られるわけではないとすれば、それを可能にする戦略・手法がどうしても必要なのです。
”信頼を対価に変える”シナリオ
当社が提唱する”信頼を対価に変える”トラスタライズという手法のなかでは、社会への貢献(企業がもつ”信頼”のひとつの形)をもとに対価獲得を目指すうえで、価値の定義とその増幅に向けた道筋の明確化を最初に実施します。特に注目するのは、以下の3つの要素です。
- 対価獲得の源泉となる、顧客にとっての価値(顧客価値)
- 持続可能な社会実現に貢献する、社会にとっての価値(社会価値)
- 顧客価値や社会価値を直接的に高める社内の資源(成長ドライバー)
そして目指すべきは、この顧客価値と社会価値の両方をセットで創造・増幅することです。
筆者の手掛けるコンサルティングにおいては、お客様企業の置かれた状況・資金的余力にもよりますが、例えば以下のような考え方のもと、シナリオの構築を行っています。
⓪顧客価値と社会価値が対の関係になり、顧客満足が社会貢献にもつながる形で両者の内容を再定義する
①これまで培われた社会価値に着目し、できる限り顧客価値に変換・訴求することで拡販・タネ銭を獲得
②拡販により増幅した社会価値をさらに訴求に活用しつつ、タネ銭を成長ドライバーに振り向ける
③成長ドライバーにより顧客価値・社会価値双方の増幅を狙う
④対価獲得に加え、社会的意義の拡大を示すことにより社内の動きも加速させる
お客様企業ごとの実態に寄り添いながら“信頼”を顧客価値・社会価値の形で定義し、それを中核として戦略策定・プロセス構築・営業活動といった各要素間の整合を図ることにより、顧客・社会に対する価値創造・訴求力を戦略的・総合的に高めていくことが、「信頼を対価に変える」トラスタライズの本質です。
この考え方は社会貢献以外の信頼(例えば、他社と比べきわめて高い品質・信頼性等)であっても適用可能です。少しでも多くの企業様にご興味・ご関心を寄せて頂きたいと考えています。その結果、信頼をテコに、対価獲得という壁を乗り越え、長期的に事業を成長させていくことを筆者は願ってやみません。