第25回 信頼を対価に変える「仕組み」の考え方
安定的・継続的に価値を創造できる仕組みを整えることが、自社の信頼の増幅と、それに基づく競争優位を実現するうえで非常に有効です
過去のコラムでもご説明している通り、「信頼」活用による対価獲得の本質は、買い手が購買決定の際に抱く価値の期待値をできる限り高めることにあります。
その際の前提として求められるのは、「安定的に優れた価値を創造・提供すること」です。買い手の期待値を上げようと思うならば、魅力的な製品・サービスが確実に提供されること、つまり価値の低いものが提供されてしまう確率をできるだけ下げることが重要だからです。価値の高さを追求するのみならず、それを安定的に提供する、つまり品質を高めることは、信頼を対価に変える上での重要な必要条件のひとつです。
今回は、その品質を担保し改善していくための、「仕組み」の考え方についてご紹介していきます。
信頼を安定的・継続的に創造する「仕組み」の重要性
品質を高めるには、何らかの「仕組み」が必要になるのが一般的です。創業から間もないタイミング等で、社長自ら、もしくは一部の熟練者のみが製品・サービスを提供し、その際に品質をチェックするという属人的な対応が可能な場合には、仕組みは不要です。
しかし、取引の規模や件数が拡大すると、やがて属人的な対応では仕事が回らなくなるタイミングが訪れます。社長や熟練者が頑張ってどうにかこなす、という対応には必ず時間的・体力的な制約が存在するためです。
このような場合、新たに人を雇ったり、提供プロセスの効率化を行うことにより、処理できる量を増やしていくことになります。しかし、それまで社長や熟練者が個人の能力・経験値の高さによってこなしてきた仕事を、新しくきたばかりの人にそのまま任せてもうまくいかないのは明らかです。誰もが効率的に仕事をこなせるようにするためには、必ず仕組みが必要になります。
仕組みを通じて提供価値を高い確度で再現できるからこそ、提供する製品・サービスをより多くの顧客に提供し、満足してもらうことにつながります。また、仕組みによって価値創造の基盤となる要素を実行・改善していくことで、自社がビジネスを通じてどのような貢献をしてきたか、という実績をより具体的に訴求することもできます。
その結果、製品・サービスが持つ魅力が多くの人に届き、紹介を呼び、リピーターを離さない、といった好循環につながっていきます。
「信頼を対価に変える仕組み」のポイント
経営における仕組みの重要性は色々なところで目にしますが、「信頼を対価に変える」観点からは、どのような仕組みであればよいか、具体的に見てみましょう。
誰でも実行できる・人が変わっても実行できる
これは先ほども述べた点ですが、信頼を訴求する上で、買い手が期待する価値が確実に提供されることは非常に大切です。だとすれば、製品・サービスを提供する過程において、少なくともその価値の高低を左右する重要な工程については、誰が対応したとしても常に一定のレベルを実現できる必要があります。
そのためには、その工程で目指すアウトプットのレベルや対応方法が明確化されていなければなりませんし、それを実際に担当する人が正しく理解する必要もあります。あるいは、特定のスキルを備えた人のみを採用するといった形で、働く側の能力のばらつきを揃えることが有効なケースもあるかもしれません。
いずれにせよ、特定の人の経験や勘・コツに極力頼らない仕組みを整えることは、信頼の構築や事業の拡大のための重要なポイントとなります。
顧客起点の訴求に活用できる記録・証明を行える
自社の信頼性の高さを訴求する上で、自社がこれまで成し遂げてきた実績を伝えることは非常に有効な手段のひとつです。この時、よくやってしまいがちなのは、「漠然と現在の業務を実施し、訴求に使えそうなものを寄せ集める」ということですが、このアプローチだと買い手が価値を感じてくれるかどうかは不透明です。
そうではなく、「買い手に刺さりそうな価値・訴求要素を見極めて、日々の業務のなかで記録・証明できる仕組みを整える」形にすれば、買い手が価値を感じる要素を自社の実績として蓄積し訴求することがダイレクトにできるようになります。自社の現在の業務ありきの「インサイド・アウト」ではなく、買い手の価値から逆算した「アウトサイド・イン」の考え方が大切です。
また、価値の記録・証明の具体的な手法については別の回で取り上げたいと思いますが、あくまで買い手の価値を念頭に置きつつ、費用対効果の観点から最も効果的な手段を選択するようにしましょう。
日々の業務を通して改善につながる設計がなされている
仕組み化による大きなメリットとして、やり方が明確になっているからこそ、改善、すなわち日々の業務を通じそのやり方をさらに良いものにしていきやすくなるという点も見逃せません。業務プロセスの日々の改善を通じ、創造する価値の増大、それを実現するためのコストの低減を継続的に実施すれば、やがて自社にとっての競争優位の源泉になっていきます。
なお、改善を実施する際には、マニュアルの更新など、一定の作業も発生します。こうした改善を行う際の手順なども標準化しておくことで、「改善自体の負荷が原因で改善が行われなくなった」という事態を防ぐようにしましょう。
今回は「信頼を対価に変える」上で重要となる「仕組み」の考え方についてご紹介しました。前提として、自社が創造・提供すべき価値が明確に定まっていることが求められますが、その価値から逆算して仕組みを作りこむことができれば、持続的な競争優位をもたらす強力な成長エンジンとなります。
あなたの会社でも、是非仕組みによる価値創造に取り組んでみませんか?