第33回 「個人の露出」が会社の信頼性を高める
会社に属する個人を前面に出した情報発信により、組織の背後にいる人々がどのような存在かを伝えることで、会社全体の信頼性向上につながります。
過去のコラムでもたびたびご紹介している通り、企業の「信頼」は多くの要素が絡み合って形成されており、対価に変えていく上では様々な手段が存在しえます。そのような数ある手段のなかから、今回は「個人の露出」という考え方について取り上げます。
個人を前面に押し出した情報発信は避けられてきた
企業による情報発信は、従来から様々な手段で行われてきました。例えば、チラシやTVコマーシャルなどは消費者にとって最も身近な例といえますし、企業にとって重要な出来事・発表があった際にはプレスリリースの活用なども頻繁に行われています。
これまで、そのような情報発信は企業の名前やロゴをもってのみ実施されるのが一般的でした。一部の会社の個性的な名物社長が前面に出てきたり、従業員全員でCM出演するといったケースも無くはなかったのですが、どちらかというと少数派でした。企業の情報発信は、あくまで「組織」が発信者として実施されてきたのです。
企業の訴求に個人の顔が見えてこない理由については様々な要因があります。個々人の考えでなく企業全体としての発信をしているのだから、個人が前面に出るやり方は望ましくないという考え方もありますし、インターネット関連では、ネットリテラシーとして個人の名前や顔を表に出す情報発信はすべきではないともいわれています。また、奥ゆかしさを美徳とする日本人特有の感性なども少なからず寄与しているでしょう。
しかし、企業の信頼性に対する消費者意識の向上や、情報発信手段の低コスト化・多様化により、そういった考え方も少しずつ変化してきています。組織と個人の観点からいえば、組織に属する個人を前面に押し出した訴求が、企業の信頼性を高めうることがわかってきており、個人に焦点を当てた訴求にシフトする企業も出てきています。特に、低コストで動画を数多く公に発信できるようになったことで、その傾向が加速しています。
個人の露出が信頼性を高める理由
それでは、なぜ個人の露出が企業の信頼性を高めるのでしょうか。そこには大きく分けて3つの理由があります。
まず第1に、個人の顔や名前を隠すことなく情報発信を行うことは、発信側の自信や熱意を強く感じさせる効果があります。先ほども述べた通り、個人が顔や名前を出すことには一定の拒否反応やリスクが伴うのが一般的です。にも関わらずそれを行うことで、情報に自信がある、あるいは覚悟をもって発信していると受け手側が感じます。
第2に、個人の顔や名前を出すことは、買い手をだましたり、裏切ったりする意思がないことをアピールする効果があります。個人が前面に出ていれば、罪に問われるような行いはしないだろうと印象付けられるためで、特に知名度の低い会社の場合にその恩恵が大きくなります。もちろん、個人名が架空のものであったり、そんなことはお構いなしに不法行為が行われる可能性もゼロではありませんが、個人の顔や名前が見えていた方が、相対的には信頼が高まるということです。
第3に、個人の露出は企業の人間味、風土を感じさせる効果を持ちます。BtoB、BtoCを問わず、相手の企業がどのような考え方・雰囲気を持っているのかを知ることは、取引をするにあたり大きな判断材料となります。企業の代表者や社員が主体的にメディアやSNSで情報発信を行っていれば、内容やトーン次第ではあるものの、基本的にはオープンかつ積極的な印象を与えるため、関係構築の際にプラスに働くのです。
個人の露出が信頼を高める具体例
個人の露出が信頼を高める例として真っ先に思いつくのが、スーパーで売られている農産物に、生産者の顔と名前を表示する取り組みです。不思議なもので、同じ野菜や果物であっても、ただ生産者の写真が添えられているだけでより良い商品であるかのように感じられます。
これは、買い手の側が「もしその商品に不具合があった場合には信頼を損ねてしまいそうなのに、それでも顔や名前を出すということはそれだけ自信があるんだな」と好意的に解釈してしまうことにより発生する効果です。特に、自分自身が前面に出ることに躊躇する人であればあるほどそのように感じます。また、実際に顔が見えることで、生産者を応援したくなる心理が働くこともあるでしょう。
当社がご支援しているクライアントのなかにも、Webを通じた集客の成功要因として、個人の顔と名前を前面に打ち出した動画訴求を数多く実施されている会社様が複数存在します。自社の製品・サービスが売れる理由を正確に把握・伝達することはもちろん大前提ですが、そのうえで社長や従業員の顔と名前をしっかり出していることが信頼性を高めていると実感されており、実際に順調に受注を拡大・成長を遂げていらっしゃいます。
以上ご紹介した通り、個人の露出は効果的に実施すれば企業の信頼を高める可能性があります。もちろん、個人が顔や名前を前面に押し出すことには、一定のリスクや抵抗が発生することも事実ではあり、何でもかんでもというわけにはいきません。
しかし、1人ひとり異なる個人の存在は、その人を直接引き抜かない限り他の企業には真似のできない要素のひとつであり、自社のオリジナリティを形成するうえで有効に活用できる可能性があります。信頼構築と訴求力向上の観点で、あえて個人を前面に押し出すことが信頼性向上に繋がる可能性があるという点を、ぜひ一つの選択肢として検討してみてください。