第59回 「実績ゼロ」からの受注戦略──信頼を勝ち取る4つの要素

信頼構築の4要素を駆使し事業初期の受注確率を高めよ

実績がない状態でも、信頼を構成する「能力・姿勢・他者評価・リスク低減」の4つの要素を意識することで、受注の可能性を高めることができます。

「新たな事業に進出したいのですが、実績が無くて受注に苦戦しているんです」

あるサービス業を手掛けるY社長から、このような相談を受けました。新規事業を立ち上げ、徐々に市場に食い込もうとしているものの、取引先から「過去の実績はありますか?」と聞かれるたびに、どう答えるべきか悩んでいるとのことでした。

確かに、BtoBの取引では「過去の実績」が大きな要素とされることが多いです。取引先としては、「すでに成功している事例がある=一定の品質や対応力を担保できる」と考え、発注の判断を下すからです。そのため、既に実績があるということは販売上の大きな武器になります。

それでは逆に、実績がない段階でも信頼を勝ち取り、受注を確保していくにはどうすればよいでしょうか。今回は、4つの視点をご紹介します。

目次

実績があると、なぜ受注しやすいのか

ごく当たり前のことではありますが、目に見える実績がある企業は、それだけで一定の「信頼」を獲得しやすいといえます。なぜなら、発注側は「他の顧客が満足してきた=自社の期待にも応えてくれるはず」と考えるからです。

たとえば、企業がシステム開発を外注する際、「すでに他社で同じようなシステムを構築し、問題なく運用されている実績がある会社」と「これが初めての案件」という会社では、当然前者の方が安心感があります。

また、実績があると「事例」として活用しやすいです。過去の成功事例を提示することで、取引先は自社が発注した場合のイメージを持ちやすくなります。営業担当者が「この企業とこの企業でこういう成功事例があります」と説明することで、発注のハードルがぐっと下がります。

しかし、創業したばかり、もしくは新規事業を立ち上げたばかりの段階では、当然ながらこうした実績を持つことができません。では、どうすればよいのでしょうか。

実績がないときに「信頼」を勝ち取る4つの要素

トラスタライズの理論においては、ビジネスにおいて他者からの信頼を形作る要素を「能力」、「姿勢」、「他者評価」、「リスク低減」の4つに大別しています。これらが相互に組み合わさることにより、買い手が望む価値の期待値が高まり、支払っても良いと思える対価が向上していきます。

それでは、実績が無い段階でこれらの4要素をどのように高めていくかを考察していきましょう。

1. 「能力」面での期待を向上させる

実績がないならば、別のやり方で買い手が求める価値を確実に提供できる「能力」を論理的に示す必要があります。その際に打てる手立てとしては以下のようなものが挙げられます。

事前の計画・準備を徹底し、リスクを排除する
 「このプロジェクトを受注した場合、どのように進めるのか?」を詳細に計画し、納得できる形で示す。

過去の類似経験を整理し、説明できるようにする
 「この業務そのものは初めてだが、過去に似た業務でこのような成功を収めた」という視点で伝える。

専門性を積極的に発信する
 ホワイトペーパーやブログ、セミナー登壇などで知識を発信し、専門性を認めてもらう。

例えば、当社が過去に支援したある企業では、受注経験のない業務の提案時に、プロジェクト計画書とリスク対策案を詳細にまとめ、相手企業に提示することにしました。その結果、「実績はないものの、しっかりとした計画を持っている」と評価され、途中段階での十分な検証と説明を行うことが条件にはなったものの、受注に至りました。

2. 「姿勢」面での期待を向上させる

信頼を得る上で大切なのは能力のみに限りません。過去のコラムでも度々取り上げている通り、会社あるいは経営者・担当者の「姿勢」、つまり熱意や誠実さも、信頼を形作る大切な要素です。

「この案件にかける本気度」を伝える
 相手に「本当に真剣に向き合ってくれそうだ」と感じてもらうことは、姿勢を伝える上で大切なことです。その際、目の前の仕事だけでなく、自社や経営者自身が仕事を積み重ねて何を成し遂げたいかを合わせて伝えることで、言葉の信憑性がより深まっていきます。

レスポンスの早さ・正確さや細やかな対応を徹底する
 姿勢の良しあしは、ふとした対応にも表れてきます。迅速丁寧な対応を心掛けていれば多くの場合相手にも伝わるものですし、「この会社は仕事を任せたら、しっかり対応してくれる」と思ってもらうことにつながるはずです。

相手のニーズを深く理解し、的確な提案をする
 「単に売り込みをしているのではなく、本当に自社の課題を解決しようとしてくれている」と認識してもらうことができれば、一緒に目的に向かうためのパートナーとして、少なくとも一度は信頼をしてもらえる可能性は高まるでしょう。

冒頭にご紹介したY社長も、まだ目立った実績は確かに無いものの、ご自身が自身の今後を懸けて成し遂げたいテーマと、そのために踏まなければならないステップのイメージを明確に持っておられました。そして、オンラインの画面越しであっても、その熱意は静かに伝わってくる感覚を覚えました。このような相手に対しては、筆者自身がそうであったように、何か手助けしたい、仕事を一緒にしてみたいという気持ちが生まれてくるものです。

3. 「他者評価」面での期待を向上させる

仮に自社に実績・信頼がない場合でも、他者の「お墨付き」を得ることで信頼を補完することもできます。以下はその一例です。

紹介を活用する
 特に実績のない段階では、既存の取引先や知人に見込み客を紹介してもらえるよう、自身ができることを明確にしつつ、相手が紹介しやすいような形で働きかけていくことが有効です。

推薦の声を集める
 過去に一緒に働いた人、協力会社、業界関係者から推薦コメントをもらうことで、少なくとも上記の「姿勢」の部分においては、信頼を補完することができます。

提携・協力関係を築く
 信頼のある企業と提携し、共同でプロジェクトを進めることも、信頼を補う上では有効です。実績がものをいう事業であれば、自前にこだわらず、早期に小さくても実績をつくってしまう、という姿勢が肝要です。

何か新しいことをはじめようとする際、既存のパートナーや取引先の紹介が強力な武器になります。ある企業では、経営者の知人からの紹介で第一号案件を獲得し、その成功事例を基に次の受注につなげることに成功しました。仮に自社単独で集客を行おうとすると、WebマーケティングにせよDMにせよ、小さくない費用がかかることになりますし、それで確実に集客ができるとも限りません。なるべくコストをかけず、他人の力を借りる、という視点を持つことは極めて大切です。

4. 「リスク低減」面での期待を向上させる

実績がない段階では、相手企業にとって「本当にこの会社に発注して大丈夫か?」という不安があります。本質的な部分での信頼を高めていくことは当然必要ですが、並行して「リスクを低減する工夫」を行うことも、短期的には有効です。

返金保証や無料トライアルを設ける
 リスク低減のわかりやすい例としては、いわゆる「返金保証」です。「もし満足できなかったら返金します」と明確に伝達することで、発注側のリスクを抑えることにつながります。

契約条件を柔軟にする
 返金保証と近いですが、途中解約可能な契約を用意するなど、「失敗しても大きな損失はない」と安心してもらうことも有効です。初期の段階ではどうしても高単価・長期の契約にしたいと考えてしまいがちですが、場合によっては小さく短く、実績をつくることを優先したほうがよいこともあります。

信頼構築の4要素の水準を満遍なく引き上げていくことが重要

新規事業の立ち上げや創業当初は、実績がなく「受注できないのでは」と悩むことも少なくありません。しかし、信頼は必ずしも実績だけで決まるものではありません。能力・姿勢・他者評価・リスク低減の4つの要素を意識し、満遍なくレベルを引き上げていくことを意識すれば、受注の可能性を引き上げることにつながるはずです

自社の武器を冷静に分析し、どの要素を強化できるかを考え、信頼構築を通じて新たな取引先を開拓していきましょう。

著者プロフィール

トラスタライズ=信頼を対価に変えるコンサルタント
トラスタライズ総研株式会社

代表取締役 池尻直人

企業の「信頼を対価に変える」専門コンサルタント。
独自の「トラスタライズ手法」を用いて、見えない信用や信頼を、目に見えるカタチに変え、対価へと変えることで多くの経営者から注目を集めている。企業経営において社会・顧客双方の価値の創出が求められる時代にあって、「信頼」を切り口に、顧客企業が売上・利益を向上させられる手法の研究・提言を行っている。

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代表取締役 池尻直人

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目次
ポイント1:「対価に変えられる信頼」の見つけ方
ポイント2:信頼を効率的に対価に変える戦略の描き方
ポイント3:信頼を可視化・証明する仕組みの作り方
ポイント4:信頼から確実に対価を得るための訴求のやり方
ポイント5:信頼活用に向けた社内の意識改革のやり方

価 格:¥2,200 (税込)
発売元:日本コンサルティング推進機構


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信頼を対価に変えるトラスタライズ・セミナー
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