第60回 信頼の4要素で読み解く、経営者と従業員の信頼構築

「能力、姿勢、他者評価、保証・リスク低減」の信頼の4要素を応用することで、経営者に対する従業員からの信頼構築を加速させることができます。
「信頼できる経営者」とは、どのような存在でしょうか?
その答えは人により様々ですが、企業経営において「信頼」は最も重要な要素のひとつとされます。顧客や取引先との信頼関係が売上や取引条件に影響を与えるように、経営者と従業員の信頼関係 もまた、企業の成長と組織の安定性を左右する極めて重要な要素です。
しかし、「経営者は従業員に信頼されるべきだ」と言っても、その具体的な構築方法が明確になっているわけではありません。「オープンなコミュニケーションが大切」「誠実であることが重要」など、漠然としたアドバイスはよく聞かれますが、では実際にどうすれば経営者と従業員の間に強固な信頼関係を築くことができるのか ? それをフレームワークとして整理することは、経営において非常に有益な視点となります。
トラスタライズの手法においては、ビジネスの信頼を「能力、姿勢、他者評価、保証・リスク低減」という4つの要素に分けて考えています。そしてこの考え方は、経営者と従業員の信頼関係にもそのまま適用できます。本コラムでは、このフレームワークを用いて、経営者が従業員からの信頼を獲得するための4つの要素と、具体的なアプローチ を解説していきます。
1.能力 ─ 経営者としての実力が信頼の基盤となる
経営者がどれほど誠実で従業員思いであったとしても、企業が成長しなかったり、経営判断が迷走している場合、従業員は次第に不安を覚えます。結局のところ、「この人についていけば大丈夫だ」 と思えるだけの経営手腕を示すことが、信頼の基礎であることは間違いありません。
この「経営者のとしての能力」を示すうえでは、例えば以下のようなことが求められます。
- 経営計画の策定・共有を通じて、会社の方向性を明確に示す
- 意思決定の根拠を論理的に説明し、納得感を持たせる
- 事業を成長させ、利益を確保することで、「この会社で働き続けても安心」という感覚を醸成する
「この会社で働いていても未来がないのでは?」という不安は、従業員の信頼を大きく損なう要因になります。事業の安定・成長を、結果だけでなくその過程の面でも示し続けることが、経営者の能力に対する信頼を築く上で不可欠です。
2.姿勢 ─ 経営者の価値観・行動に対する信頼
社内からの観点では、経営者としての実力だけではなく、「従業員のことをどう考えているのか」という価値観・行動もまた、信頼を大きく左右します。経営者がどれだけ有能でも、言行不一致や独善的な意思決定が目立つと、従業員の心は次第に離れていきます。
- 経営方針を一貫性をもって伝え、ぶれない姿勢を示す
- 誠実なコミュニケーションを徹底し、隠し事をしない
- 失敗や課題を率直に共有し、従業員に対して誠実であることを示す
- 心理的安全性の確保に努め、発言しやすい環境を整える
以上のような取り組みを通じ、「この経営者は、私たちのことを考えている」「話を聞いてくれる」 と思われるかどうかが、経営者の信頼を大きく左右するのです。
3.他者評価 ─ 社内外からの評価を信頼につなげる
経営者個人の姿勢や能力だけではなく、「周囲からの評価」 もまた、従業員の信頼を形成する要素となります。例えば、次のような外部からの評価は、従業員の会社に対する誇りや安心感につながります。
- 取引先や顧客からの高評価
- 金融機関や投資家からの信用
- 社会的な評価(例:受賞歴やメディア掲載)
従って、顧客や取引先からの良いフィードバックを社内に共有したり、社外の表彰や認定にチャレンジすることで会社の評価・信頼性を高める取り組みが、経営者自身に対する信頼の形成にも寄与するでしょう。
4.保証・リスク低減 ─ 「この会社で働き続けられる」という安心感
「この会社で働くことは、自分の生活や将来にとってマイナスはないか」という不安を解消することが、経営者に対する信頼にも直結しています。仮に「会社の業績が傾いた」、「自分がうまく成果を出せなかった」、「働くことが難しくなった」という場合にも、給与・雇用の安定、働きやすさ、成長の機会が担保されていれば、会社や経営者への信頼は高まるでしょう。
例えば、次のような施策や周知を充実させることで、信頼構築につながります。
- 会社の財務状況を適切に開示し、安定性を伝える
- 従業員のキャリアパスを整え、成長機会を提供する
- 福利厚生や働きやすい環境を充実させる
もちろん、過度の保証は逆に従業員の働くモチベーションを下げる要因にもなりかねませんので、この保証・リスク低減は、補足的に用いるという考え方が大切です。例えば、「終身雇用を約束する」とまではいかなくとも、「この会社にいることで成長できる」「将来の展望がある」と感じてもらうことができれば、働き先として自社を選ぶことの不安を軽減し、信頼構築につながっていくはずです。

経営者と従業員の信頼関係は、企業の成長にとって極めて重要な要素です。「能力」「姿勢」「他者評価」「保証・リスク低減」の4つの観点でバランスよく信頼を築くことができれば、従業員の主体性が向上し、組織全体のエンゲージメントが高まります。
経営者として、どの要素が不足しているのかを客観的に見極め、信頼を構築・強化するための施策を実行していくことが、自身の求心力を高め、持続的な成長を実現するカギとなるでしょう。
著者プロフィール
トラスタライズ=信頼を対価に変えるコンサルタント
トラスタライズ総研株式会社
代表取締役 池尻直人
企業の「信頼を対価に変える」専門コンサルタント。
独自の「トラスタライズ手法」を用いて、見えない信用や信頼を、目に見えるカタチに変え、対価へと変えることで多くの経営者から注目を集めている。企業経営において社会・顧客双方の価値の創出が求められる時代にあって、「信頼」を切り口に、顧客企業が売上・利益を向上させられる手法の研究・提言を行っている。

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代表取締役 池尻直人
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