第94回 信頼構築と資金調達 ~信頼を「資本」に変える回路⑤~

信頼や善い行いは、返済原資・損失耐性・将来の判断という3つの軸で整理・具体化することで、資本拠出の判断材料になりえます。
「うちは”地域のために”という想いを持って仕事をしているけど、いざ投資や資金の話になると、結局“数字”だけで見られてしまう気がする」
そんな感覚をお持ちの経営者は少なくないと思います。
品質重視、地域への貢献、環境配慮、人材への投資、コンプライアンス…
こうした取り組みは、本来は、会社が長く続くための土台であり、社会からの信頼を積み上げることにつながる営みでもあります。
ただ現実には、製品・サービスを売るときと同様、「良い取り組みですね」で止まってしまい、資金調達や投資判断の場面ではうまく力にならないことも少なくありません。
そこで今回は、「資金調達」の場面を念頭に置きながら、信頼構築の取り組みはどうすれば金融機関や投資家にもっと響くようになるのか、という点で考察していきます。
なぜ「善い行い」は資金調達の場面で評価されにくいのか
融資・投資・保証など様々な場面はありますが、資金調達においては、基本的に評価の中心は、「資金が増える/戻る見込みの確からしさ」「回収できなくなるリスク」といった点に置かれます。「この会社は良い会社か」といった漠然とした話で判断が行われることはまずありません。
近年では、一部の金融機関や投資家が社会的な評価・貢献を意識した融資・投資を表明するなどの動きは出てきています。しかし、仮に組織・個人として応援したい気持ちがあったとしても、最終的には「将来のキャッシュフロー」と「想定外が起きたときの毀損」の方が判断材料としてははるかに大きいです。
信頼構築やサステナビリティに関わる取り組み、一言で言えば「善い行い」は、
そのままでは判断材料としての優先順位が低い、というのが現状です。
たとえば、
- 環境配慮が、どの程度売上や粗利に影響するのか
- コンプライアンスや安全対策が、将来の損失をどれくらい抑えるのか
といった点は、会社ごとの条件に大きく左右されることもあり、外部からは数値化しづらいといえます。
結果として、いくら善い行いを重ね、発信をしたとしても、審査や判断の現場では
- 直近の利益やキャッシュフロー
- 財務の安全余裕率
- 過去に大きな事故や不祥事があったかどうか
といった、扱いやすい情報に重心が寄っていくことになります。
だからこそ、「善い行い」やそこから生まれる信頼を資金調達に活かしていくためには、相手側の判断に使える形で情報が揃え、整える必要があります。
「善い行い」を資金調達につなげる3つの視点
資金調達や投資判断の場面で、相手が見ているポイントを整理すると、概ね次の3つに集約できます。
① この会社は、どこから返済原資を生むのか
② 想定がずれたとき、どこまで持ちこたえられるのか
③ この会社は、今後も事業を続けていける状態にあるか
① ”返済原資”との接続:経済合理性を説明できるか
融資や投資を判断する場面でまず問われるのは、返済の原資や成長によるゲインがどれだけ生み出されるか、です。ここで、善い行いや信頼が、経済合理性につながることを明確化・具体化できれば、その説明力は増してくるはずです。
たとえば、
- サステナビリティの取り組みが取引先の要件にあり、それを満たすことで案件数が〇%増える
- 価格以外の検討軸を作ることができ、粗利を〇円ほど上乗せできる
といった具合です。つまり、信頼やそれを支える善い行いを、単に「良いことをしている」というレベルの話に留めるのではなく、売上や原価・コストから成る利益構造をどのように変えるか、という、経済合理性の話にまで踏み込んで語るのです。
(具体的な考え方は、第90回、第91回、第92回のコラムでそれぞれ取り上げています)
すべてを精緻に数値化する必要はありません。
ただ、「どの数字にどの程度効くのか」「どのような前提で起きる話なのか」を整理しておくだけでも、資本の提供側は検討情報として扱えるようになります。
② ”持ちこたえる力”との接続:リスクを軽減できると示せるか
次に問われるのは、想定が外れ、事業計画が崩れた時の耐性です。
想定外をゼロにすることは現実には難しいので、何か問題が起きたときに、損失をどこまで軽減できるかが焦点となります。
たとえば、
- 引き受けない案件や取引をあらかじめ定めている
- 影響範囲を特定できる業務設計やトレーサビリティがある
- 説明や是正、保証の考え方が事前に整理されている
このあたりの要素が明確になっている会社は、「想定外の出来事が発生した時に、一定のところで踏みとどまれること」がある程度見通せます。
(信頼や善い行いをリスク軽減の観点で位置付ける際の考え方は第93回のコラムで取り上げています)
資本の世界では、不確実性が小さいほどは大きな価値です。信頼や善い行いを、損失の上限を抑える手段として具体的に語ることができれば、充分な意味を持ちえます。
③ ”将来の判断”との接続:不測の事態における判断の確度を示せるか
①返済原資、②損失への耐性に加え、さらに何かを示せるとすれば、
「想定外が起きたとき、この会社・経営者はどう動くのか」という点です。
資金調達の交渉の際、将来の数字や計画を完全に示しきれるわけではもちろんありません。
不確定要素が残る中では、将来の経営者の判断への信頼性がその結果に影響をおよぼします。
これは、判断が早いか、正しいか、という話とは少し異なります。
- 困ったときに、情報を隠さないか
- 資金提供者をないがしろにし、自分たちだけが得をする形に、判断を歪めないか
- 社会的に問題のある行動を、短期の利益のために選び、将来にリスクを残さないか
といった、判断の方向性そのものへの信頼です。
この観点で、既に培われた信頼や善い行いの実績は大きな意味を持ちます。なぜなら、そのような実績が、将来の判断の方向性の正しさを、一定程度担保しうるからです。
当たり前の話ではありますが、過去に信頼に足る行いをしているとはっきりわかる会社・経営者の方が、それがあいまいな会社・経営者よりも、将来の判断に期待ができるのです。
とはいえ、単に美しいストーリーとして語るだけでは、その場限りの再現性がない話のように捉えられてしまうかもしれません。
一歩踏み込んで、そのような信頼や善い行いが、一貫した判断基準の結果であり、経営に組み込まれていることを示すことができれば、より将来への期待も高まります。
どんな場面で、どんな判断をし、どんな行動を取ってきたか。
それを、事例・ルールの両面で説明できる状態にしておくのが効果的といえます。
それができれば、
「この会社は、追い込まれても極端な判断には走らない」
という安心材料を与えることができるのです。

いかがだったでしょうか。
信頼やサステナビリティなどの善い行いは、それだけでは資金調達の武器にはなりにくいかもしれません。
しかし、返済原資・耐久力・将来の判断という、3つの着眼点に具体的に紐づいた時、
資金調達のうえでも意味を持ち始めます。
善い取り組みを、善いままで終わらせず、資金拠出の判断に耐える形へ変換することは、積み上げた信頼を実利に変える道のひとつといえるでしょう。


著者プロフィール
トラスタライズ総研株式会社
代表取締役 池尻直人
社外経営企画室長・経営企画パートナー。
独自の「トラスタライズ手法」を用いて、見えない信用や信頼を、目に見えるカタチに変え、対価へと変えることで多くの経営者から注目を集めている。企業経営において社会・顧客双方の価値の創出が求められる時代にあって、顧客企業が持続的に成長し、信頼を築き上げていけるよう、経営企画機能を伴走型で提供している。

著者プロフィール
トラスタライズ総研株式会社
代表取締役 池尻直人
社外経営企画室長・経営企画パートナー。
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目次
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ポイント3:信頼を可視化・証明する仕組みの作り方
ポイント4:信頼から確実に対価を得るための訴求のやり方
ポイント5:信頼活用に向けた社内の意識改革のやり方
価 格:¥2,200 (税込)
発売元:日本コンサルティング推進機構

