第99回 「信頼が大事」の、その先へ

良い仕事をしているのに報われない。原因は信頼の不足ではなく、信頼の届け方にあります。
「品質ではうちは高く評価されているんです。でも見積もりを出すと毎回値切られますし、値上げなんて絶対無理です・・・」
コンサルティングの現場で、こうした声をよく聞きます。品質にこだわっている。納期も守る。対応も丁寧。それなのに利益が残らない。良い仕事をしているのに、数字につながらない、という嘆きです。
品質は高い。でも、その品質の高さが取引先にとって具体的にどんなメリットを生んでいるのかを、相手にわかる形で示せていない。だから交渉の場で語れるのは、「うちはちゃんとやっています」だけになり、価格の話に持ち込まれてしまう。
同じ構造は、社内にも現れます。社長の中には経営方針がある。でも、それが具体的な言葉や計画になっていなければ、社員の判断の材料にはならない。まじめな社員ほど独断を避けるので、「社長に確認してから」が日常になる。社外に対しても同様で、事業での実績や将来性があっても、今後の見通しを数字で語れなければ、「堅実な会社ですね」止まりになる。
いずれのケースも、会社の実力が足りないわけではありません。実力や価値が、届くべき相手に見える形になっていないのです。
信頼が届かない構造
では、なぜ実力や価値が見える形にならないのか。
多くの場合、材料そのものは社長の頭の中にある程度存在しています。品質の裏付けとなる数字も、社員に示すべき方針も、銀行に見せるべき計画も、社長はすでに持っている。全体像が見えている。方針もある。判断基準もある。
ただ、それが社長の頭の中から出てこない。
ここに構造的な落とし穴があります。社長が優秀であるほど、自分の頭の中だけで全体像を描けてしまう。描けてしまうから、改めて言葉にする必要を感じない。「わざわざ言わなくても、見ていればわかるだろう」と思ってしまう。結果として、経営の全体像が社長個人に閉じたまま、何年も過ぎていきます。
しかし、社長に見えているものが、他の人に見えているとは限りません。当たり前のことではあるのですが、現実には社長が想像する以上に届いていません。
社長が当然だと思っている判断基準は、社員にとっては知らないルールです。社長が「なぜわかってくれないのか」と感じるとき、社員は「何を求められているかがわからない」と感じている。取引先との関係も同じです。社長にとって自社の品質が高いことは自明でも、その根拠を示さなければ、相手にとっては違いには映りません。
このすれ違いの原因は、能力の差でも、信頼の不足でもありません。社長の頭の中にある経営の全体像が、外に出ていないことです。
信頼は確かにある。ただ、届いていない。これが「まじめにやっているのに報われない」の正体です。
経営に形を与える、ということ
本コラムでは、過去98回にわたって「信頼」について考えてきました。信頼を対価に変える道筋、信頼を構成する要素、信頼を数字で裏付ける考え方、信頼を組織に広げる方法等々。
さまざまな角度から書いてきましたが、共通点もあります。信頼が経営の力に変わった場面では、例外なく「形にする」というプロセスが介在していました。
自社の価値を顧客のメリットとして数字で示す。方針と判断基準を社員が使える言葉にする。事業計画を金融機関が評価できるロジックにする。どれも、社長の頭の中にあったものを、相手に届く形に変換する作業です。
逆に言えば、信頼が経営の力にならなかったとき、多くの場合、足りなかったのは信頼そのものではなく、信頼を届けるための「形」でした。
「いい仕事をしていれば、いつか伝わる」
誠実な仕事が信頼の源泉であることは間違いありません。しかし「伝わるのを待つ」だけでは、経営は変わらない。信頼は、意図して届けるものです。そして届けるためには、社長の頭の中⇒社内⇒社外へと、届けられやすい形に変換するという作業が必要なのです。

では、自社の経営において、何が既に形になっていて、何がまだ社長の頭の中にとどまっているか。それを棚卸ししてみることが、最初の一歩になるかもしれません。
自社の信頼、届いていますか?
- □ 自社の強みを、取引先のメリットとして説明できますか?
- □ あなたの経営方針を、社員が自分の言葉で語れますか?
- □ 3年後の自社の姿を、金融機関に数字で示せますか?
すべてにYesと言えなかったなら、信頼はあるのに届いていない状態かもしれません。「信頼が大事」というだけでなく、さらなる具体化にトライしてみることを強くお勧めします!

著者プロフィール
トラスタライズ総研株式会社
代表取締役 池尻直人
社外経営企画室長・経営企画パートナー。
独自の「トラスタライズ手法」を用いて、見えない信用や信頼を、目に見えるカタチに変え、対価へと変えることで多くの経営者から注目を集めている。企業経営において社会・顧客双方の価値の創出が求められる時代にあって、顧客企業が持続的に成長し、信頼を築き上げていけるよう、経営企画機能を伴走型で提供している。

著者プロフィール
トラスタライズ総研株式会社
代表取締役 池尻直人
社外経営企画室長・経営企画パートナー。
独自の「トラスタライズ手法」を用いて、見えない信用や信頼を、目に見えるカタチに変え、対価へと変えることで多くの経営者から注目を集めている。企業経営において社会・顧客双方の価値の創出が求められる時代にあって、顧客企業が持続的に成長し、信頼を築き上げていけるよう、経営企画機能を伴走型で提供している。

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目次
ポイント1:「対価に変えられる信頼」の見つけ方
ポイント2:信頼を効率的に対価に変える戦略の描き方
ポイント3:信頼を可視化・証明する仕組みの作り方
ポイント4:信頼から確実に対価を得るための訴求のやり方
ポイント5:信頼活用に向けた社内の意識改革のやり方
価 格:¥2,200 (税込)
発売元:日本コンサルティング推進機構

