第93回 不測の事態に強い会社になるために ~信頼でリスク耐性を高める回路④~

不測の事態に強い会社になるために~信頼でリスク耐性を高める回路④~

信頼を下地とし、具体的な対策を講じることで、万一の自体が生じた際にも事業を続けられる体制を整えていくことができます。

「うちは自ら不正をすることは絶対にないと思いたいけど・・・それでももし何か起きたときに、会社がどこまで持ちこたえられるかを考えると、正直恐ろしい」

こうした感覚をお持ちの経営者は少なくないと思います。昨今、様々な企業の不正や従業員のSNS炎上などが繰り返されているように、リスクが顕在化する可能性も、その際の影響も大きくなっているかもしれません。

不祥事、事故、品質不良、情報漏えい…
故意でなくとも、ヒューマンエラーや委託先の不備など、「望ましくない出来事」を完全にゼロにすることは、事業を続けていく以上難しいのかもしれません。

一方で、コンプライアンスやサステナビリティの考え方が広まる中で、「まっとうな会社でありたい」という意思を持ち、それをカタチにしようとする会社も増えています。

ただ、それらの取り組みが、

  • どのように損失を抑えるのか
  • どこまでが仕組みに落とし込まれていて、どこからが現場任せのままなのか

まで整理できているケースは、それほど多くないのではないでしょうか。

今回の回路④では、信頼構築の取り組みを続ける企業が、損失抑制の観点から恩恵を受けるための方向性を探っていきます。

目次

リスク顕在化を予め想定し、発生時の影響を最小化する

リスク対策というと、どうしても
「事故を起こさないようにする」「不祥事をゼロにする」といった発想になりがちです。

もちろん、望ましくない出来事を減らす努力は前提として欠かせません。
ただ、事業を続ける以上、一定のトラブルが発生してしまう可能性を完全に無くすことはできません。

発想を少しだけ変えてみましょう。
悪いことが起きたか・起きなかったかも大事なのですが、同様に重要なのは、
「それが起きてしまったときに、どれくらいの損失につながるか」
という視点です。

この「1回起きたときの損失の大きさ」を左右するのは、主に次の2つです。

  1. 起きたときに、どの範囲の取引先・顧客・関係者に影響が及ぶのか
  2. 元に近い状態に戻るまで、どれくらいの時間とコストがかかるのか

例えば、「原材料の調達先に問題が見つかった」という場合でも、

  • 仕入先とロットがきちんと把握されていて、
    影響する製品と顧客をすぐに特定できる場合と、
  • 誰から何をどこまで仕入れているのかが整理されておらず、
    取引全体を止めて調査せざるを得ない場合では、

会社にとっての損失はまったく別物になります。

前者であれば、

  • 影響する範囲を絞り込み
  • 事実と対応方針を説明し
  • 是正策を示すことで、一定のところで収束させる余地があります。

後者では、

  • 影響範囲が特定できない不安から取引全体の見直しが進んだり
  • 説明が後手に回ることで、「他にも問題があるのではないか」という疑念が広がったり

といったことで、回復にかかる時間もコストも大きくなります。

まとめると、

  • どれくらいの頻度で起こりうるか(発生頻度)
  • 1回起きたときに、どのぐらいの大きさ・範囲で影響が及ぶか(インパクト)
  • 元に近い状態に戻すのに、どれくらいの時間とコストが必要か(回復負担)

この3つの組み合わせによって、同じように見える出来事でも、
経営にとっての損失の重さは大きく変わってくる
のです。

にもかかわらず、現場でのリスク対策はどうしても、

  • チェック項目を増やす
  • 承認のハンコを増やす
  • 「今後は気をつけましょう」で終わる

といった、「発生させないこと」に偏りがちです。

しかし、信頼を重視し、構築し続けてきた会社であれば、

  • そもそも、引き受けてはいけない案件や取引を明らかにしておく(発生頻度の観点)
  • 問題が生じたときに、影響範囲を限定し、ダメージを低減する(影響範囲の観点)
  • 何かあったときに、筋の通った説明と是正ができる状態にしておく(回復負担の観点)

といった点で、損失回避を実現しやすくなります。
これまでの善い取り組みを、もう一段具体的な経営の防御力につなげていくことができるはずなのです。

信頼を「損失を減らす構造」に変える3つの視点

先ほど見てきたように、リスクが顕在化した際の損失の重さを左右するのは、

  • どれくらいの頻度で起こりうるか(発生頻度)
  • 1回起きたときに、どのぐらいの大きさ・範囲で影響が及ぶか(インパクト)
  • 元に近い状態に戻すのに、どれくらいの時間とコストが必要か(回復負担)

の3つでした。

ここからは、信頼構築を大事にしてきた会社だからこそ取り組みやすい
「損失を減らす3つの視点」として、それぞれを具体的に見ていきます。

1.そもそも引き受けるべきでない案件・取引を言語化しておく

最初の視点は、「発生確率・頻度」を下げる方向です。

リスクの芽を完全に摘み取ることはできませんが、
そもそも「どのような案件・取引を引き受けるか」を見直すことで、
望ましくない出来事が起こりやすい環境を避けることはできます。

例えば、次のような条件が重なる案件は、
トラブルの可能性も、その際のインパクトも大きくなりがちです。

  • 条件や責任範囲が曖昧なまま走り出す案件
  • 自社の体制から見て、明らかに無理のある納期・コスト設定
  • 環境・安全・人の扱いなど、価値観の違いが大きい取引先

信頼を大事にしている会社であれば、自社のトラブルを避ける体制が整っているか、
少なくとも整えようと努力はしているはずであり、こうした案件に違和感を覚える感度を
持っているはずです。

ただ、その感度が「個々の経営者や担当者の感覚」に留まり、
会社としての基準に落ちていないことがあります。

このような場合に大きな意味を持つのが、

  • 自社として、どのような価値観・姿勢を大事にしているのか
  • その価値観から見て、「受けない」と決める案件・取引はどのようなものか

を、簡単でもよいので文書として言語化しておくことです。

例えば、

  • 環境負荷や安全面で、最低限のレベルを満たしていない場合には受けない
  • 説明責任を果たせないような条件(極端に短い準備期間、十分な情報開示がない案件)は断る
  • 自社の理念や方針に明らかに反する用途・使われ方を想定している案件は見送る

といった「レッドライン」を、経営として定めておく。

自社にとっての信頼を明確にし、積み重ねることに成功している会社こそ、
リスクのある案件・取引を避けるためのアンテナを強く働かせることができる
のです。
引き受けない領域をはっきりさせておいた方が、結果として守れるものが増えていくはずです。

2.問題が生じたときに、影響範囲を限定できる構造にしておく

2つ目の視点は、いざ発生した際の「インパクト」を抑える方策です。

望ましくない出来事が起きたとしても、
その影響を狭い範囲に留められるかどうかは、日頃の業務設計によって大きく変わります。

ここで重要になるのは、

  • どの情報を、どこまで把握しているか
  • どの工程で、何を確認しているか
  • 業務ごとの責任範囲は明確か

といった点です。

例えば製造業や食品関連であれば、

  • 原料や部材の出どころ(仕入先・ロット)の把握度合い
  • 設備点検や衛生管理の記録の残し方
  • 外部委託先にどこまでの水準を求めているか

といった設計によって、「問題が見つかったときにどこまでさかのぼる必要があるか」が変わります。

また、建設業やサービス業であれば、

  • 現場ごとにどのような事前確認・完了確認を行っているか
  • 予想外の事象があったときに、どのタイミングで本社・経営に情報が上がるか
  • 協力会社やパートナーとの間で、どこまでリスクに関する情報を共有しているか

によって、「どこまで巻き込んで調査・対応が必要になるか」が変わってきます。

サステナや脱炭素の観点から行っている取り組みも、
見方を変えると、

  • どこまでトレースできるか(情報のつながり方)
  • どこで何をチェックしているか(プロセスの節目の切り分け)

を整える営みそのものです。

「善いこと」としての意味だけで見ると投資の判断が難しい取り組みも、
一度こうした「インパクトを限定する構造」という視点に置き直すと、
損失抑制のための投資として位置づけ直しやすくなります

そしてもちろん、そのような体制を整備すること自体が、自社の信頼にもつながります。

3.何かあったときに、筋の通った説明と是正ができる状態をつくる

3つ目の視点は、リスク顕在化からの回復の負担を抑え、加速させるための方策です。

何かトラブルが起きてしまい、影響を受けた相手側が知りたいのは、突き詰めれば次の2つに集約されるでしょう。

  • 何が、どのように、どうして起きたのか
  • そのうえで、どこまで・どう守ってくれるのか

前者は「説明」の話、後者は「保証・責任の範囲」の話です。事が大きくなればなるほど、この両方が求められるようになります。

まず説明の部分でいえば、求められるのはだいたい次の3点です。

  • 価値基準:会社として何を優先する姿勢で動いていたのか
  • プロセス:どのような方針・手順・リソースにもとづいて判断・運営していたのか
  • 事実:何が、いつ、どのような形で起きたのか。なぜ上記が守られなかったのか

この3つを一貫した説明として出せるかどうかで、
「改善の余地がある会社か」「もう一度任せられるか」の評価は大きく変わります。

そしてもうひとつ、「どう保証してくれるのか」という点もきちんと明らかにする必要があります。その場の対応として何かを打ち出すよりも、

  • どのような種類のトラブルのときに
  • どこまでを自社の責任として引き受けるのか(再施工・再提供・返金などの範囲)
  • そのとき、誰が・どの順番で・どう動くのか(連絡・説明・是正のフロー)

を、事前に決めておき、できる範囲で相手にも共有しておけるとベターです。

たとえば業種にもよりますが、

  • 無償でのやり直しはどこまでか(期間/回数/作業範囲)
  • 返金・値引き・追加対応など金銭面の扱い方の原則
  • 不具合が先方の顧客やサプライチェーンに波及した場合の考え方
  • 異常を検知してから、いつ・誰が・どの情報を伝えるか

といった、「リスク防止のルール」をつくって明示するだけでも、現場は迷わず動けますし、
相手側も「このラインまでは必ず守ってくれる会社だ」と理解しやすくなります。

事前の想定・準備から生まれる早期のリカバリーを、いざというときの自社の損失回避や相手側へのアピールポイントとして使っていく、というのがここでのポイントとなります。

信頼でリスク耐性を高める回路

ここまで見てきた3つの視点は、どれも特別なノウハウではなく、信頼を大切にしている会社であれば、本来すでに持っている感覚を整理し直したものに過ぎません。

  • 自社の価値観から見て「受けない方がいい案件・取引」を言葉にしておくこと
  • 何か起きたときに、どこまでの範囲で止められるかを、日頃の業務設計の中で準備しておくこと
  • 万一の際に、何をどう説明し、どこまで守るのかをあらかじめ決めておくこと

これらはすべて、「ミスをゼロにする」ためというより、

望ましくない出来事が起きても、会社が続けられるようにする
そのうえで、積み上げてきた信頼を守りやすくする

ための備えだといえます。

信頼を大切にする会社ほど、「悪いことは起こさない」という前提で物事を考えがちです。ただ、本当に守りたいのは、「何かあっても、関係者と向き合いながら事業を続けていける状態」ではないでしょうか。

具体的な備え・仕組みに落とし込むことで、その状態を実現できるとすれば、それは信頼がもたらす価値のひとつとして、大きな意味のある取り組みだといえるでしょう。

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著者プロフィール

トラスタライズ総研株式会社
代表取締役 池尻直人

社外経営企画室長・経営企画パートナー
独自の「トラスタライズ手法」を用いて、見えない信用や信頼を、目に見えるカタチに変え、対価へと変えることで多くの経営者から注目を集めている。企業経営において社会・顧客双方の価値の創出が求められる時代にあって、顧客企業が持続的に成長し、信頼を築き上げていけるよう、経営企画機能を伴走型で提供している。

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トラスタライズ総研株式会社
代表取締役 池尻直人

社外経営企画室長・経営企画パートナー
独自の「トラスタライズ手法」を用いて、見えない信用や信頼を、目に見えるカタチに変え、対価へと変えることで多くの経営者から注目を集めている。企業経営において社会・顧客双方の価値の創出が求められる時代にあって、顧客企業が持続的に成長し、信頼を築き上げていけるよう、経営企画機能を伴走型で提供している。

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ポイント1:「対価に変えられる信頼」の見つけ方
ポイント2:信頼を効率的に対価に変える戦略の描き方
ポイント3:信頼を可視化・証明する仕組みの作り方
ポイント4:信頼から確実に対価を得るための訴求のやり方
ポイント5:信頼活用に向けた社内の意識改革のやり方

価 格:¥2,200 (税込)
発売元:日本コンサルティング推進機構


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