第22回 ”姿勢”の訴求により企業の信頼・対価を高める
自社が”善意”の存在であること、および自社が常に顧客を大切にすることを姿勢として示すことで、価値提供に対する買い手の期待値と対価を向上させることにつながります。
”信頼を対価に変える”アプローチを進めるうえで、自社が顧客に対し真摯に価値提供を行う”姿勢”を備えた企業であると示すことは、第18回コラムでご紹介した”能力”の訴求と同様、非常に重要な意味を持ちます。今回のコラムでは、そのような自社の”姿勢”を示すための方策についてご説明します。
企業の”姿勢”への信頼は、対価を大きく左右する要因のひとつ
企業の”姿勢”をアピールすることがなぜ重要かといえば、「顧客が思い描く効用が期待通りに提供される確度」を高める効果があるためです。例え取り扱っている製品・サービスが優れたものであるように見えたとしても、それを提供するのがどうも怪しい、信頼がおけない企業である場合、一般的には買い手に購入を思いとどまらせようとする力が働きます。それが高額なもの、あるいは失敗したくないものであれば尚更です。
私たちの生活においても、売り手がいまひとつ信用できない場合に購入を取りやめたり、あるいはリスク覚悟で思い切って購入したりといったことは時々起こり得ます。こうした場合に、売り手が信頼に値する企業であることを示すことができれば、失注の防止や対価の向上につながるはずです。なぜなら、思った通りの製品やサービスが確実に提供されることがわかっていれば、顧客が抱く価値の期待値が高まるためです。
逆に、この姿勢の部分で顧客の期待を大きく裏切ってしまうと、影響は深刻かつ長期のものとなるでしょう。代表的なのは「品質不良の製品の存在を長年にわたり意図的に隠ぺいし、そのまま出荷していた」といった不祥事です。このようなことがあると、どれだけ製品やサービスの魅力をアピールしたとしても、それが期待通り提供されることへの信頼性は大きく低下してしまうため、多くの人が購入を見送る、またはリスクを受け入れられる価格まで下がるのを待つという選択をすることになります。こうした企業が再び信頼を得るまでには、多くの改善策の実施や説明、そして時間が必要となります。
こうした”姿勢”のアピールには、大きく分けて2つの方向性があります。それぞれご説明していきます。
姿勢の訴求策①:善意をもった企業であることを示す
”姿勢”を訴求する上で有効となる方策のひとつは、企業の”善意”を示すということです。人や社会に優しい企業であることを示すことで、買い手に「そのような善意を持っていることをうたう企業であれば、当然買い手である私にとっても悪いことはしないだろう」と思ってもらうことを目的とします。
この場合、自社が社会にとって貢献していることを示すことが基本的な方向性になります。すぐに思い浮かぶのは、環境保護や地域社会への貢献のための寄付・ボランティアなどのいわゆる慈善活動です。こうした慈善活動の実績を示すことにより、自社が善意を持っている企業であることを示す証左になりえます。
但し、これまでも何度か本コラムでお伝えしている通り、本業と関連が薄い分野での慈善活動に注力しすぎることは、中小企業の場合あまりお勧めしていません。大企業の場合は財務的・人的余力があるので問題ないのですが、リソースに限りのある中小企業の場合は、より本業と関連した分野での社会貢献を模索・追求すべきです。
その際、第16回コラムでもご紹介した、本業の追求を通じ副次的に生まれる社会価値にフォーカスするという考え方が有効です。本業の結果生まれる社会への貢献を把握・言語化し、その実績を訴求することで、善意を持って業務に取り組んでいる企業であることをアピールすることは十分可能です。
姿勢の訴求策➁:”直接の接点”を強化する
”姿勢”を訴求するうえでのもうひとつの方向性は、買い手との接点に着目することです。具体的には、営業担当者や接客を担う店員といった人々がこの接点の役割を担っています。どのような対応が買い手に向き合う”姿勢”の訴求につながるかは業界によって異なる部分もありますが、「自分の期待を理解し、真摯に、安定した対応を取ってくれる」相手に対し良い印象を抱くという点はある程度共通しています。
この点については個々人の資質・能力による違いも大きいのですが、企業の仕組みとして改善していける部分も少なからず存在します。例えば、「顧客の好みの傾向をデータ化・共有することでお客様の期待を理解しやすくする」、「顧客重視の対応を是とする評価体系を導入する」といったものが挙げられます。
また、最後の「安定した対応」という部分においても、担当者間の情報共有や引継ぎをしっかりと行うことで、買い手の情報提供の二度手間などを回避させるとともに、会社全体としてその買い手を尊重しているという印象を与えることができます。他にも、裏の面を見せない(例えば、理由もなく客毎に違う対応・サービスをしない、陰で他の客の悪口を言ったりしない)ということも、真摯な印象を与えるには意外と重要なポイントです。自分が受けている対応が常にその企業のベストの対応である、と受け止めてもらうことが重要だからです。
ここで挙げたような方策を仕事の仕組みや業務マニュアルに落とし込み、会社全体としての応対レベルを上げていくことが、自社の”姿勢”により相手に信頼を抱いてもらうために大切です。
自社の信頼性の訴求はバランス重視で
上記のような考え方・施策で自社の”姿勢”に対する信頼を高めることが、顧客の期待値とそれに伴う対価を高めることに繋がります。但し、第18回で述べた「能力」との訴求のバランスを考慮することには十分留意すべきです。「姿勢」がどれだけ優れた企業であったとしても、価値提供の「能力」が伴わないことには期待値・対価向上の余地が限定的なものとなりますし、その逆もまた然りだからです。
自社が顧客や社会に対し創造・提供する価値を明確にしたうえで、それを実現する「能力」や「姿勢」を明確かつバランス良く訴求していくことが、顧客の期待を高め、対価を引き出すことに繋がっていきます。信頼を築いていきたい事業者様は、自社の訴求のあり方に偏りがないか、提供価値に繋がる内容となっているかを是非一度ご確認頂ければと思います。