第23回 他者評価の活用による信頼の補強
自社の能力や姿勢を示すことでの信頼構築が困難・不十分な場合には、他者からの評価を意図的・戦略的に活用することで補うことができます。
過去のコラムで、信頼による対価向上のためには、自社の能力と姿勢をバランスよくアピールすることをご説明しました(詳細は第18回コラムと第22回コラムを参照)。この両者が備わってこそ、買い手から信頼に足る取引相手として見なされ、対価獲得・向上を実現する道が拓けます。
とはいえ、実績が乏しい事業初期の段階で訴求材料が足りない場合など、この両者を十分にアピールしきれないケースもあるでしょう。そのような場合には、他者からの評価をうまく活用することが有効になります。今回のコラムでは、自社の信頼を対価に変えていく上で、この「他者評価」をどのように活用するかという点を掘り下げてみましょう。
他者の評価は、自らの仕掛けで高めていくことができる
「他者の評価を自社の信頼性の訴求に活用する」場合、多くの人が思い浮かべるのは口コミや紹介ではないでしょうか。他者評価の活用とは、つまるところ自社だけでは信頼性を伝えきれないという場合に、他者の信頼を借用するということであり、好意的な口コミや紹介は、取引成立・対価獲得に際し大きな助けとなります。
一方、そのような口コミや紹介が生まれやすくなるよう、自社で戦略的に仕掛けをしている企業は意外と多くありません。「良い製品・サービスを提供していれば、特別なことをせずとも自然と評価はついてくる」といったお考えの方も数多くいらっしゃいます。もちろん、製品・サービスの質を高めていくことが、外部から高い評価を得る上で重要なのは言うまでもありません。
とはいえ、外部からの評価が自然に広がるには、一般的には長い時間がかかります。特に、ある程度強力な競合他社が存在し、自社と同等の製品・サービスを提供しているという場合にはなおさらです。競合他社も、製品・サービスの質の向上や訴求には当然力を入れるためです。
冒頭にも述べたように、事業拡大前など、自社の信頼性が絶対的でない場合に他者評価で補うことは有効な方策のひとつです。他者評価を積極的に活用することで、よりスピーディーに自社の実績づくりやその結果としての信頼構築を進めることができるでしょう。一定の投資を行うにしても、その金額に見合った集客・売上拡大効果が得られるならば、より戦略的に他者評価を活用していくことには大きなメリットあります。少なくとも、初めから選択肢から排除する必要はありません。
特に、近年のSNSなどの発達によって、他者評価を獲得・活用する手段は広がってきています。自社の能力や姿勢を磨き上げていくだけでなく、他者評価もうまく組み合わせることで、自社の信頼をより早期かつ効率的に高めていくことができます。
BtoC:投資を伴う短期施策と共感づくりの長期施策を並行させる
その具体的な方向性を、BtoBとBtoCに分けてそれぞれ見ていきましょう。まずBtoCの場合は、好意的なユーザーの声を、今まさに自社の製品・サービスの購入を検討している人に届けることが基本線になります。
こうしたケースでよく用いられるのは、”お客様の声”といった形で、自社のサイトやカタログなどにユーザーのコメントを掲載するという方法です。実際にその製品・サービスを購入・経験した人の感想は、購入の意思決定に際し有用な情報源となります。良い声だけを集めているのではないか、という意味で恣意的に見えてしまうこともありますが、お客様の声の収集と活用は、多くの場合まず実施すべき出発点であるといえます。
加えて近年では、WEBやSNSの発達により、ユーザー自身が企業を介さずに声を発することも当たり前の光景となりました。こうしたユーザーの声は、企業自身による発信ではないため、より情報の客観性が高そうに見えることが一般的です。その分、企業側がコントロールすることも難しそうに思えるのですが、実際には企業側の取り組みによってユーザーの発信・展開を強化することも可能です。
例えば、インフルエンサーと呼ばれる人たちに自社の製品・サービスを取り上げてもらうサービスを活用することで、一定の信頼性を伴った形で(このケースではそのインフルエンサーの信頼を借用する形で)見込み客に好意的かつ受け入れられやすい”声”を届けることができます。
また、ユーザーがシェアしたくなる要素を織り込んでおくことでも”お客様の声”の共有は活性化されます。通販サイトでよく見られる”レビューを書いてくれたら〇〇をプレゼント”といった取組みは、直接的でわかりやすい施策といえます。いずれも費用はかかりますが、通常時間のかかる信頼の訴求を早期に開始できるようになるため、「信頼や時間をお金で買う」効果が期待できるのです。
ここで挙げた施策はいずれも、初期段階におけるブースターのような役割を担いますが、BtoCの場合は最終的には「自社の製品・サービスのファンになってもらう」、もしくはその背景にある「自社の考え方・追求する価値に共感してもらう」ことを目指します。その際、自社が顧客・社会に提供する価値や、それにより生まれる「信頼」を、自社ならではの言葉でわかりやすく伝達することが欠かせません。投資による一時的な施策と自社ならではの信頼の訴求をうまく組み合わせていくことで、自社や製品・サービスを応援してもらえる形で他者評価を効率的・効果的に作り上げることができます。
BtoB:有力企業との取引実績を最大活用
BtoBの場合、BtoCと比べると他者評価の活用余地は限定的になるかもしれません。その理由としては、「製品・サービスの実力自体が厳しくチェックされる(他者に頼らず自ら評価する)場合が多いこと」、および「買い手である企業がSNS等でその製品・サービスの評価を発信・共有するケースが稀であること」などが挙げられます。
そんなBtoBの世界においても、自社の信頼を大きく高める要素があります。それは、「有力企業との取引実績」です。「あの有力企業が認めた製品・サービス・会社である」という事実は、その会社が自社を評価していることの何よりの証左であるため、ひとたび取引実績を作ることができれば、その有力企業の信頼の力を借りて、自社の信頼性を大きく高めることができます。それが誰もが知るような業界トップ企業であればその効果は絶大で、その企業と取引がある、という事実だけで格段に商談が進みやすくなることもあります。
他者評価の戦略的活用という観点においては他にも、テレビや雑誌といった第三者のメディアに取り上げてもらう(いわゆるパブリシティ)など、様々な施策が存在します。自社の能力や姿勢の訴求が十分に行えない場合には、他者からの評価を意図的に活用するという視点を持って信頼の構築を進めていきましょう。