第24回 「保証」制度を用いた買い手リスク緩和による信頼の補強
品質保証や返金保証などの「保証」制度を導入し、買い手に正しく理解してもらうことで、購入時のリスクを緩和し、自社に不足している・訴求しきれていない「信頼」を効果的に補うことができます。
前回のコラムでは、自社だけでは信頼の訴求が難しい場合に、「他者評価」を活用することの意義について記載しました。今回のコラムでは、信頼の不十分さを補い、顧客の期待値を高めるもう1つの手段、「リスク緩和」について取り上げたいと思います。
自社の信頼を補う効果を持つ「リスク緩和」
買い手に対し、自社の能力や姿勢に対する信頼を十分に伝えられない場合、「リスク緩和」は購入の決め手となりうる手段です。
ここでいう「リスク緩和」とは、買い手が購買時に期待していた価値が、何らかの理由でその通りに提供されなかったときに、決められた対処をすることを予め約束しておくことを指します。買い手が購買時に抱いていた期待や支払った対価を下回る満足度しか得られなかったときに、その損失分の補填を約束しておくことで、買い手の期待値を引き上げることにつながるのです。
具体的な「リスク緩和」の例としては、例えば以下のようなものがあります。いずれも、価値の不足や対価の超過を補うことを保証するものです。
- 品質保証
購入した製品に何らかの不備があった場合、無償(もしくは通常より安い価格)で新しいものに交換する
(サービスの場合はもう一度提供する)
- 返金保証
購入した製品・サービスに満足できなかった場合、全額(もしくは実費等何らかの基準額との差額)を返金する
- アフターサービス
製品・サービスの提供時のみならず、一定期間が経過した後も修理等に応じる
いずれも、日常的な購買行動のなかでも目にすることがあるものですが、購入に際しての買い手の不安を和らげる意味を持ちます。それにより、支払ってもよいと思える対価を引き上げる効果を持つのです。
保証制度導入のリスクと効果
「リスク緩和」の手段として保証制度を導入する場合、返品が多発しその対応に追われたり、売上や利益が大きく低下するのでは、と心配になるかもしれません。ですが、多くの交換・返金型の保証制度では、実際に適用の申し出があるのは全体の1~2%程度と言われています。この数値自体は業界によるところも大きいですが、申し入れる手間や時間が惜しかったり、実際には満足できなくとも伝えにくいという場合に申し出をしないということは少なからずあるでしょう。いずれにせよ過度な心配は不要と考えられます。
もちろん、実際には顧客に満足頂けていない状態を放置してよいということでは全くなく、クレームが相次ぐ製品・サービスであれば保証制度以前に提供のあり方そのものを見直す必要があります。
また、類似の手法で「無償で製品・サービスを提供する」というものもありますが、こちらは信頼構築・活用の観点からはあまり推奨はしていません。「保証」であれば、自社の製品・サービスの価値に対する自信を示すことにもつながりますが、「無償提供」の場合はどうしても買い手の中で安値のイメージが形成されてしまうためです。安値を売りとする製品・サービスであればよいですが、そうでなければなかなかそのイメージを払拭することは困難になってしまいます。
実際の交換・返金が行われにくいということも踏まえると、無償で提供する覚悟があるのであれば、保証型の施策を採用したほうが良い場合も多いでしょう。
信頼構築には、様々な要素を組み合わせた戦略的な取り組みが必須
今回は、自社に対する信頼を補う手法として「リスク緩和」の考え方をご紹介しました。「リスク緩和」は自社の信頼性が不足しているときに、顧客の期待値を引き上げ、購買に踏み切ってもらうために非常に有効な手段です。
但し気を付けなければならないのは、自社に最低限の信頼がないとその効果も薄まるという点です。なぜなら、本当に得体の知れない会社であれば、その保証自体が約束通り実施されるかがわからないためです。
現実には、返金保証をうたいながら実際に請求しても適用されないといったトラブルも数多く発生しています。「リスク緩和」の手法を用いる際は、適用の条件を具体的に定めておき、購入時に買い手がその条件を含めて理解できるように伝達することが大切です。そしてその条件に合致する際は、真摯に応じることも必要不可欠です。このような対応が、やがては「姿勢」に対する信頼の醸成にも活きてくるでしょう。
ここまで数回に分けて、自社の信頼を構築・活用するための方策についてご紹介してきました。自社が定義した「信頼」を構築・強化していくためには、自社の「能力」と「姿勢」の訴求を主としながら、「他者評価」と「リスク緩和」の手法を戦略的に組み合わせていくことが重要なのです。
あなたの会社では、自社の「信頼」を戦略的に醸成し、利益に繋げられていますか?