第48回 「安定供給力」で選ばれる ~多角的リスク対応による信頼構築~

平時・有事の安定供給確保で他社に先んじた信頼を築く

安定供給力は取引先からの信頼を得るための要です。選ばれる企業になるための供給体制を多角的視点から構築することで、競争力の向上につながります

 企業が取引先から選ばれるための重要な要素に「安定供給力」があります。昨今、サプライチェーンの混乱や自然災害の発生頻度が増える中、「どんな状況でも確実に供給してくれる」パートナーがもし存在するならば、対価をある程度多く支払ってでも取引をつなぎとめておきたいと考える企業も少なからず存在します。

 また、品質トラブルやSNSでの炎上といった突発的なリスクも注目を集めやすくなっています。供給が安定しているかどうかだけでなく、トラブルが発生した時にどのような対応をとるかも取引先選びに際しての重要な基準になってきています。今回は、不確実な時代に選ばれる企業となるための安定供給力を支える着眼点を3つご紹介します。

目次

需給予測の体制整備・精度向上

 供給安定性を保つ上では天災やトラブルといった突発的なものを意識しがちですが、基本となるのは日々の需給管理です。特に、在庫量や生産計画の調整において、需要予測の精度向上が求められます。過剰在庫や欠品を避け、適切な供給量を維持し、取引先に対して安定供給を確約することが信頼構築の基本です。

 需要予測は、過去の実績や信頼性の高い統計データなどを用いて試算・精度向上を繰り返していくのが定石です。また、シーズンごとの需要の波を捉えてサプライチェーンプランニングを行い、需要増減の波に合わせて柔軟に在庫を調整できるようにする仕組みづくりも、供給の安定性向上につながります。さらに、近年ではここにAI技術やデータ分析ツールを活用することで、過去の販売実績や外部の市場動向をリアルタイムで把握するなどして、より精度の高い予測を行うこともできるようになってきています。

 平時においても、顧客が望む通りの供給ができるようにすることが、機会損失の防止や信頼構築のためには絶対に欠かせない要素であることは間違いありません。

サプライチェーンの多様化によるリスク分散

 需給管理の精度を高めると同時に、サプライチェーンの多様化によるリスク分散も安定供給力を支える重要な要素です。特定のサプライヤーや地域に依存していると、その供給源に問題が生じた際に安定供給が難しくなります。複数のサプライヤーや生産拠点を確保することで、予期せぬリスクに備えることができます。

 例えば、主要原材料を複数のサプライヤーから調達したり、国内外に複数の生産拠点を分散させることで、特定の拠点に依存しない体制が整います。これは平常時には冗長・無駄とも映るかもしれませんが、災害や物流の混乱が発生した際に、他のルートから供給を維持するうえでは必要な投資です。

 また、緊急時にサプライチェーンが途絶えた場合に備え、同業他社と協力体制を築いておくことも有効な手段のひとつになりえます。例えば、業種は同じだが遠隔地に位置する同業他社と、有事の際のバックアップ供給やサーバーの共同運営といった連携を取り決めておくことで、ある地域で災害が起こった際にも顧客に対する影響をより小さくすることができます。

 こうした、サプライチェーン全体を見据えたリスク分散策を検討しておくことが、取引先に「常に安定供給できる企業」という安心感を与え、選ばれるきっかけのひとつを作ることにつながるのです。

突発的リスクへの即応体制と透明性ある情報共有

 突発的なリスクが顕在化した際に、自社自身がいかに早期に立ち直るかという対応力の高さも、安定供給力を訴求するうえでは欠かせない要素です。政治や天災といった広域にまたがる要因だけでなく、品質トラブル、工場での災害、SNSでの炎上など、自社に限ったリスクも数多く存在します。こうした事態は企業の信頼に直接関わり、迅速な対応がなされなければ取引先や顧客からの評価が下がる可能性があります。

 こうしたリスクに対処するためには、対応の手順や社内フローをあらかじめ設定しておき、社内外に透明性を持って情報を伝える備えが必要です。また、実際にそれを滞りなく実行できるよう、定期的に訓練を行うことも地味ですが大切です。自社内でのトラブル発生時には速やかに対応部署を確定し、事態の原因調査や公表方法、謝罪対応などを明確に決めておくことで、信頼喪失を最小限に留める施策を迅速かつ確実に取れるようにしなければなりません。

 このような体制を整えておくことは、社内の対応力を高めるだけでなく、取引先に一定の安心感を与えることにもつながります。一般に人や企業は全てのリスクを見通せるわけではありませんので、「万が一」はどのような企業にも起こりえます。それでも、リスクに対する考え方や対応策を明示しておくことで、「この企業は有事の際にも適切な対応ができる」と評価してもらえるようになり、信頼を深めることができます。

有事の際にも適切な対応ができる企業であるという評価が信頼につながる

 企業が安定供給力を高めるためには、需給管理体制の整備、サプライチェーンの多様化、突発的リスクへの対応力に加え、その対応を明確化したBCPの策定など、平時・有事双方での多角的な対策が求められます。前回のコラムでも述べた通り、これらの体制を整えている企業はまだ少数派ですから、他社に先んじて実施することで、取引先からの信頼を強化することができるでしょう。

 近年の様々なリスク要因の顕在化により、安定供給力は価格や品質と同等、場合によってはそれ以上に取引先が重要視する要素となってきています。企業にとっては、供給の安定性を高める多角的な対策を積極的に実施し、選ばれる企業としての地位を築いていくことが、今後の成長と信頼の構築に直結していくでしょう。

著者プロフィール

トラスタライズ=信頼を対価に変えるコンサルタント
トラスタライズ総研株式会社

代表取締役 池尻直人

企業の「信頼を対価に変える」専門コンサルタント。
独自の「トラスタライズ手法」を用いて、見えない信用や信頼を、目に見えるカタチに変え、対価へと変えることで多くの経営者から注目を集めている。企業経営において社会・顧客双方の価値の創出が求められる時代にあって、「信頼」を切り口に、顧客企業が売上・利益を向上させられる手法の研究・提言を行っている。

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ポイント4:信頼から確実に対価を得るための訴求のやり方
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価 格:¥2,200 (税込)
発売元:日本コンサルティング推進機構


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