第19回 「信頼」をテコに二世経営者の求心力を高める

「信頼」を確認した価値創造の明確化が後継ぎ経営者の経営軸を研ぎ澄まし、求心力を高める

二世経営者など就任したての後継ぎ経営者が、顧客・社会からの「信頼」構築を核とした方向性を打ち出すことは、先代の路線を発展的に引継ぎ、社内からの求心力を高めるうえでとても有効です。

経営者にとって、社内をまとめていくことは重要な課題のひとつといえますが、常に求心力を発揮できるとは限りません。ましてや、就任したての後継ぎ経営者であればなおさらです。今回のコラムでは、二世経営者などの”新しく就任した経営者”はどのようにして社内の求心力を高めていくべきか、という点について論じてみたいと思います。

目次

ある二世経営者からの相談

「父親の会社を引き継いだはいいが、自分なりの色を出せておらず、周囲もまだ心の底では自分を社長として認めていない気がする。自分なりの経営方針を出したいが、どう進めるのがよいか・・・」

少し前に、ある二世経営者の方からこんなご相談を受けました。

この会社では昨年事業承継が行われ、創業者である先代に代わり実の息子さんが社長に就任しました。突然の交代劇だったわけではなく、この息子さんは既に数年役員を務められていたこともあって、今回の交代はむしろ既定路線と見られていたそうです。

にも関わらず、いざ就任してみるとどことなく収まりが悪いというか、まだ経営者になり切れていない気がしているとのこと。表立って反抗する人がいるわけでもなく、良くも悪くもこれまで通り会社は回っているのですが、従業員からも「お手並み拝見」をされている感じがするそうです。

事業を承継した経営者にはよくある悩み

創業者ではなく、他での経営経験もない状態で新社長に就任した人は、多かれ少なかれこのような悩み・不安を抱えることになります。今回のケースは親子間での承継ですが、他にもM&Aなどの形で経営者が交代することもあります。特に最近では、サラリーマンなど元々経営者ではなかった人が会社を買うことが増えており、そのような場合も同じような状況に陥りやすいでしょう。

ゼロからその会社を立ち上げて少しずつ大きくしてきた創業者は、自社の商材をどうやって売るかや金融機関等関係者との上手な付き合い方など、経営における勘所を熟知しています。また、そもそも今いる従業員を雇った人でもあり、その事実だけでも強い求心力が発生します。

それに比べ、この息子さんをはじめとする後を継いだ経営者の方々は、いきなりある程度の規模に育った会社を、しかも多くの従業員を抱えた状態で引き継ぐわけです。社内でリーダーとして認められて求心力を得るために相当の胆力と工夫が求められるのは、ある意味仕方ないことともいえます。

新しい経営軸を確立するために

このような後継ぎ経営者の方に対しては、まず何よりも自社が今後目指すべき姿、すなわち経営ビジョンを明確にし、ご自身の言葉で周囲に伝えることをご提言しています。

ただ、当然ながらその内容は何でもいいというわけではなく、自社が生み出す価値や創業以来培ってきた企業風土などをある程度踏襲したものとする必要があります。もちろん、経営者として問題と認識しており、変えるべき部分はそうするべきなのですが、これまでの事業の延長線上での成長を目指す場合は創業者の考え方をさらに発展させていくスタンスで臨む方が一般的には受け入れられやすいはずです。

そのようにお伝えすると、「結局自分ならではのビジョンを打ち出せないのでは・・・」と言われることもあります。このような場合に当社が推奨しているのが「信頼」を核に価値を増幅させていく視点でのアプローチです。

「信頼」視点で経営軸を研ぎ澄ます

これまでのコラムでも少しご紹介している通り、当社では企業の「信頼」を「企業が訴求する価値を、顧客からの期待通りに提供できるかどうか」の確からしさを引き上げ、より多くの対価を得るための経営資源であると考えています。

社外に対しては、その信頼をどう可視化して訴求するかという課題がありますが、社内に対しては以下の3点を言語化することで、信頼構築という概念のもとに自社が取り組むべき領域を明確化できます。

・顧客に提供すべき価値
・顧客への価値提供と同時に社会にもたらされる価値
・それらの価値創造を強化するための成長ドライバー

※この要素の詳細は第15回コラムで説明しています

後継ぎ経営者の方々におすすめしたいのは、この3つのポイントを自社のこれまでの変遷を踏まえて言語化し、ここで定めた価値の創造・提供に社内一丸となって取り組む旨を打ち出すことです。

これにより、顧客・社会に提供する価値の強化、すなわち自社の「信頼」の増幅につながります。「自分の代で当社をさらに信頼される企業にする」という文脈のなかで自社の提供価値や成長ドライバーを語ることで、先代の積み上げてきたものを殺すことなく、しかも自分なりの方向性を示すことができるのです。

「自分の代で当社をさらに信頼される企業にする」という文脈のなかで自社の提供価値や成長ドライバーを語ることで自分なりの方向性を示す

「信頼」を目的として据えることの意義は、それが多くの働く人々にとって、自分の仕事に金銭以外の意味を与える点にあります。ワード自体は他の表現でも問題ありませんが、自社で働くことが社会にとっても意義があり、誇りを感じられるようなものとすることが、求心力を高めるうえで有効です。

さらに、このストーリーを明確にすることにより、「これまで実施していたが自社の信頼構築に繋がらない活動」をあぶりだすことができるようになります。そのような活動があれば、当然ながら経営者として取りやめることを検討すべきです。
関係のない活動を思い切ってやめることで、その分多くのリソースを自社の価値創造・信頼構築に割くことができ、「事業承継・経営者交代を契機に、よりシャープな方向性が打ち出された」という評価を得ることにつながるでしょう。

事業承継において留意すべきポイントは他にもありますが、まずは自社がどのような方向に向かうべきか、そしてそのために従業員にどうなってほしいかを価値・信頼構築の観点から言語化し、社内に問いかけることをおすすめします。

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