第102回 「経営コンサル」の成果と信頼 ── 助言だけで終わらない中小企業支援のかたち

中小企業の経営が変わるかどうかは、助言の正しさではなく、それを社員に届く言葉にし、仕組みに落とし、組織に根づかせるところまで一緒にやれる相手がいるかどうかで決まります。
ご支援先でよく耳にする話があります。
以前、別のコンサルタントに経営計画の策定を依頼した。現状分析も戦略の方向性もきちんとまとめてもらった。納品された計画書の中身に不満はなかった。ただ、それを社員にどう伝えればいいかわからなかった。結局、日々の業務に押されて、計画書はデスクの引き出しに入ったまま今日に至っている。そんな話です。
そのコンサルタントの分析が、すべて間違っていたということはないでしょう。計画書の質が低かったわけでもなさそうです。ただ、計画を「作る」ところで支援が終わっていた。その先に、社員に伝わる言葉に変え、数字を追いかけ、月次で振り返り、軌道修正する。そのような、いわば経営改革の道のりを、一緒に歩む人がいなかったのです。
前回のコラムで、中小企業に必要なのは「経営企画室」という看板ではなく経営企画の「機能」だとお伝えしました。機能が必要だとわかっても、では誰がそれを動かすのか。ここにも、多くの会社が陥りがちな落とし穴があります。
「正しい助言」の価値が変わりつつある
経営者が外部に助けを求めるとき、最も出会いやすいのは「診断と助言」型の支援です。現状分析をして、課題を整理して、打ち手を提言する。成果物は報告書。多くのコンサルティングがこの形をとっていますし、多くの人が「経営コンサル」と聞いて思い浮かべるのもこのスタイルでしょう。
この「診断と助言」の領域に、いまAIが入ってきています。
業界調査、財務分析、競合比較、戦略フレームワークの整理。かつてはコンサルタントに数百万円払って依頼していたような作業を、AIがそれなりの精度でこなせるようになりました。エージェント型と呼ばれる次世代のAIは、データ収集から分析、計画書のドラフト作成まで自動で仕上げます。
そのため、「正しい答えを出す」こと自体の価値は、急速に下がっています。もちろん、専門的な目線でみれば、プロの人間とAIとでは、まだアウトプットに差がある、という見方もできるでしょう。しかし、ユーザーが満足してしまえば、それは代替を意味することがほとんどのはずです。
しかし、AIが出した正しい答えで会社は変わるかといえば、それはまた別の問題です。おそらく、引き出しの中の計画書と同じことが起きます。中身は正しい。でも、それを社員に伝える言葉にする人がいない。仕組みに落とす人もいない。月次で回す人もいない。生成のコストが安い分、放置される可能性も高くなるはずです。
今の日本の実態として、中小企業に経営企画の専任者はほとんどいません。社長は日々の業務に追われています。このように考えていくと、問題は「何をすべきか」がわからないことではなく、わかったことを自社の中で動かす人がいないことだということに突き当たります。
経営が実際に動いた会社で、何が起きていたか
一方、当社がこれまでご支援をしてきた先で、本当の意味で経営が変わった会社には、分析や計画の質とは別のところで共通点がありました。
1)社長の頭の中が、社員に届く言葉に変わっていた
ある会社では、社長が「うちの強みは〇〇の技術力だ」と言い続けていました。ところが、それを中期経営計画に落とし込もうとしたとき、「競合ではなくウチが選ばれる技術力とは具体的に何なのか」を言葉にできていませんでした。そこからヒアリングを重ねて出てきたのは、技術力そのものではなく、顧客の困りごとに対して現場が柔軟に対応してきた実績でした。社長の頭の中にあった漠然とした「強み」が形になり、社員にも銀行にも伝わる言葉に変わった瞬間、計画全体に芯が通り、社員が腹落ちする指針となったのです。
もちろんAIも、優秀な壁打ち相手にはなりえます。ただ、社長が「技術力」と言ったとき、その裏にある20年分の現場の蓄積を知っているかどうか、そのインプットをも鵜吞みにせず、考えを巡らせられるかどうかで、返せる答えはまるで違ってきます。
2)計画に、回す仕組みがセットされていた
計画書を作っただけで終わる会社と、実際に動く会社の違いは、計画の質だけではありません。その後に定期的に振り返る仕組みや場があるかどうかです。
あるご支援先では、中期経営計画を策定した後、毎月の進捗確認の仕組みを入れました。担当者・タスク・進捗だけを簡潔に記入する簡単な帳票ベースですが、重たい報告書を必要とせず進捗確認と対策検討ができるようになり、忙しい現場でも続けていける仕組みが育ってきています。
すると、各部門が数字を自分ごととして追いかけるようになりました。そうなると、目標を上回る部門が出てくる一方、未達の部門も早期に手を打てるようになります。計画の正しさではなく、回す仕組みがあったから成果につながったのです。
こうしたケースでは、伴走型のコンサルであれば、作成に携わった計画の進捗確認を、社内の会議の場で隣に座って一緒に確認します。月次レビューを設計して軌道修正も自身の業務として一緒に行う。こういう役割を引き受けられるかどうかで、計画が紙で終わるか、会社を動かす力になるかが分かれます。
3)社長が一人で抱えていた判断に、寄り添える人がいた
ある幹部の処遇をどうするか。このまま事業を続けるか撤退するか。先代のやり方を、いつ、どう変えるか。
こうした重たい判断は、社長が決めるべきものではあるものの、社員にはなかなか相談できないという社長は多いでしょう。かといってデータを並べても答えは出ない。結局、社長が一人で抱え込んで、誰にも言えない負担になるか、先送りになってしまうケースが少なくありません。
そのような話を受け止めて、問いを返して、社長自身が腹を決めるところまで付き合う。これはまだAIには担えない役割です。AIはそのような対話の結果に責任を持ちませんし、覚悟は、データからではなく、人と人との対話の中で固まっていくものだからです。
中小企業の経営支援、経営コンサルの在り方を考えたときに、相対的に重要になってくると筆者が考えるのはこの3つです。社長の想いを伝わる言葉に変え、計画を回す仕組みに落とし、社長の覚悟に立ち会う。言い換えれば、言葉にし、計画にし、仕組みにし、組織に根づかせ、回し続ける。このプロセス全体を社長と二人三脚で引き受け、経営を「かたちにする」ということが、実効性のある経営支援のひとつの可能性なのだと思います。計画書は大切ですが、あくまでその途中の素材であって、経営そのものではありません。経営が組織の中で実際に動いている状態になってこそ、社長の経営が「かたち」になるのです。
そして、経営がかたちになった先には、社員からの信頼も、取引先からの信頼も、後からついてきます。ここまでくると、助言をするという意味での狭義の「コンサルタント」という役割からは大きく離れてきますが、助言だけでなく手も動かしながら、中小企業により大きな価値をもたらすことができる専門家こそが、信頼できるパートナーになれるはずです。
最初の一歩
経営企画の機能を自社で担うのか、外部を使うのか、AIを活用するのか。どの道を選ぶにしても、最初の一歩は同じです。社長の頭の中にある「こうしたい」を、誰かに話すなどして、言葉に落とし込むことです。
助言をくれる相手は増えました。AIもその一つです。ただ、助言を受け取って終わりの相手なのか、そこから一緒に動いていけるのか。助言の先にある姿勢にも違いがあることにも、ぜひご留意いただければと思います。
外部の支援のあり方を、今一度振り返ってみませんか?
- □ 相談には乗ってくれるが、手は動かしてくれない
- □ 計画を作ったが、月次で振り返る場がない
- □ 経営上の悩みを、利害関係なく話せる相手がいない
1つでも当てはまるなら、いまの支援の形を見直す時期かもしれません。

著者プロフィール
トラスタライズ総研株式会社
代表取締役 池尻直人
社外経営企画室長・経営企画パートナー。
独自の「トラスタライズ手法」を用いて、見えない信用や信頼を、目に見えるカタチに変え、対価へと変えることで多くの経営者から注目を集めている。企業経営において社会・顧客双方の価値の創出が求められる時代にあって、顧客企業が持続的に成長し、信頼を築き上げていけるよう、経営企画機能を伴走型で提供している。

著者プロフィール
トラスタライズ総研株式会社
代表取締役 池尻直人
社外経営企画室長・経営企画パートナー。
独自の「トラスタライズ手法」を用いて、見えない信用や信頼を、目に見えるカタチに変え、対価へと変えることで多くの経営者から注目を集めている。企業経営において社会・顧客双方の価値の創出が求められる時代にあって、顧客企業が持続的に成長し、信頼を築き上げていけるよう、経営企画機能を伴走型で提供している。

最新刊
企業の信頼を対価に変えて収益性を大きく高める「トラスタライズ」5大ポイント
自社が大切にしてきた「信頼」や、潜在的な無形の価値を、どうすれば大きな対価に変えて収益をあげていくことができるか…。
信頼を対価に変える独自メソッド「トラスタライズ」の手法で企業のこれまでになかった収益の上げ方を提示する専門家が、その具体的なポイントを社長の視点で解説した実用書。

目次
ポイント1:「対価に変えられる信頼」の見つけ方
ポイント2:信頼を効率的に対価に変える戦略の描き方
ポイント3:信頼を可視化・証明する仕組みの作り方
ポイント4:信頼から確実に対価を得るための訴求のやり方
ポイント5:信頼活用に向けた社内の意識改革のやり方
価 格:¥2,200 (税込)
発売元:日本コンサルティング推進機構

