第86回 成長と信頼につながるKPI管理 ~ビジョン・ドリブンKPI設計法~

「KPIを設定するのがいいとわかってはいるが、どう選べばいいのか分からない」
「財務指標を追ってみたけれど、日々の経営とつながっている実感がない」

経営計画を立てたはずなのに、いつの間にか誰も振り返らなくなっていた・・・
そんな「計画の形骸化」に心当たりがある経営者は少なくありません。

実際、筆者が話を伺うなかでも、多くの企業で経営計画が活きたものにならない理由のひとつに、進捗管理が上手く設計・運用されていないことがあると感じます。

KPI(重要業績評価指標)の設定は、進捗管理の重要な要素なひとつです。今回は、経営計画を「現実に前へ動かす」ためのKPI選びについて、ごく簡単なやり方をお伝えします。

目次

KPI選定が難しいのは、「正解」を探しすぎるから

KPIに迷う最大の理由は、
経営管理の教科書に載っていそうな指標=正解
と捉えてしまうことにあります。

たとえば、

  • 当座比率
  • 固定長期適合率
  • キャッシュコンバージョンサイクル

こうした指標は、財務分析としては確かに意味があります。

しかし、日常的に財務諸表を読み込み、経理部門と対話する習慣がなければ、
「意味は分かるが、行動につながらない」
という印象のほうが強くなります。

そして何より、ここが本質ですが、
そもそも数値は「目的」ではなく「結果」でしかないということです。

どれだけ精緻な指標を追っても、
現場の動きが変わらなければ数字は変化しません。
数字に引っ張られるのではなく、数字を「使いこなす」側に立つ必要があります。

上記のような指標は直感的にわかりにくいので、経営層だけが見るならまだしも、社員と共有して活用する場合には、活きた運用へのハードルは非常に高いといえるでしょう。

ビジョンを分解すると、KPIは自然に見えてくる

実際にご支援したある企業では「より強く、より誇れる会社へ」というビジョンを掲げていました。抽象的な言葉ですが、こうした端的なビジョンにこそ指標化のヒントがあります。

ビジョンは言い換えれば、「なりたい姿の要素の集合体」です。その要素をかみ砕いた上で、丁寧に「測れる形」に変換していくと、KPIは自然と姿を現します。

例えば上記の「より強く、より誇れる会社へ」というビジョンであれば、以下のように分解できます。

「強さ」を測る場合(例)

「財務の強さ」に加え、事業の持続可能性・選ばれる力も含めて考えると、次のように分解できました。

  • 収益力:粗利率、新規契約単価
  • 市場で選ばれる強さ:引き合い件数、成約率、顧客の再購入割合、外部評価の評点
  • 事業基盤の強さ:在庫回転日数、主要工程のリードタイム、社内改善提案数、不良品率の低さ

これらはすべて「より強く」という言葉から紐づく指標になっています。

「誇りを持てる職場」を測る場合(例)

「誇り」の中にも、働きやすさ・成長機会・心理的安全性など、複数の要素が含まれています。

  • 働きやすさ:1人あたり残業時間、休暇取得率、従業員満足度
  • 個々の成長:社内研修の参加率、資格取得数
  • 関係性の質:1on1実施率、離職率

いずれも「誇り」という抽象概念を「簡易的に追える形」にしたものです。

このように、
ビジョン → 要素分解 → 測れる形への翻訳
という順番で進めると、社内に無理なく伝わるKPIに落ち着きます。

そして何より、
なぜその指標を追うかの理由が明確になるため、数値自体が目的化しない
ここが、ビジョン分解型の最大の効用です。

なお、上記のケースでは、既に社内にデータがあったこともあり比較的多くの指標を追っていますが、もっと少なくても良いでしょう。

ビジョン・ドリブンKPI設計法

今回ご紹介するフレームワークは、
「ビジョン・ドリブンKPI設計法」
どの企業でも応用できる、シンプルで本質的な手順です。

① ビジョンを言語化する

3~5年後のありたい姿を「言葉」で表す。
数値ではなく方向性のみであってもよいが、伝えたい概念を正確に表すために、言葉選びは慎重に行う。

② ビジョンを要素に分解する

「お客様の役に立つ」「社会に貢献する」「信頼される」「強くなる」「成長できる人材を育てる」など、価値観を構成する要素を抽出する。

③ 各要素を「測れる形」に翻訳する

それぞれの要素を裏付けられる指標を検討し、割り当てていく。

④ 負荷と実効性を見てKPIセットを決める

いかに緻密な指標を設定しても、実際に測れなければ意味がありません。算定に時間のかかるもの、難解なものは極力避け、「毎月簡単に測れて、意味が伝わりやすいもの」を最優先に選ぶ。

⑤ 数値は「評価」ではなく「対話の材料」と定義する

数値は良し悪しを裁くための道具ではなく、
未来の行動を決めるための材料にすぎない。

KPIは「怒られる材料」ではなく、「現状を把握し次の一手を検討するための材料」として位置づけた方が、組織の中では活用しやすい。

特にこれから経営計画の進捗管理を始めようとする会社の場合、KPIは完璧でなくて良いのです。ビジョンの要点を抽出して、「その実現度合いをある程度測れるもの」を選ぶことができれば、あとはそれを共通言語にみんなで追っていくことで、計画は自然と回り始めます

そうなれば、計画を柔軟に運用になること自体もそうですし、進捗を外部に説明する場合もぐっとハードルが下がります。ビジョンの実現度合いを、わかりやすく定量的に説明できるようになることで、自社の成長と信頼強化につながります。

数字は目的ではなく単なる結果です。
あまり難しく考えすぎず、まずは動かしてみる。

この姿勢こそが、経営とともに前へ進むための力になるでしょう。

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著者プロフィール

トラスタライズ総研株式会社
代表取締役 池尻直人

社外経営企画室長・経営企画パートナー
独自の「トラスタライズ手法」を用いて、見えない信用や信頼を、目に見えるカタチに変え、対価へと変えることで多くの経営者から注目を集めている。企業経営において社会・顧客双方の価値の創出が求められる時代にあって、顧客企業が持続的に成長し、信頼を築き上げていけるよう、経営企画機能を伴走型で提供している。

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トラスタライズ総研株式会社
代表取締役 池尻直人

社外経営企画室長・経営企画パートナー
独自の「トラスタライズ手法」を用いて、見えない信用や信頼を、目に見えるカタチに変え、対価へと変えることで多くの経営者から注目を集めている。企業経営において社会・顧客双方の価値の創出が求められる時代にあって、顧客企業が持続的に成長し、信頼を築き上げていけるよう、経営企画機能を伴走型で提供している。

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