第58回 他社とのアライアンスにおける信頼構築

他社とのアライアンスは通常の事業以上に信頼構築を細やかに意識して進めよ

他社とのアライアンス構築を進めるためには、両社内の意思統一や実施事項の共有など、通常のビジネス以上に信頼構築を意識することが有効です

「不確定要素が多すぎて、相手方と実のある対話ができていないんです」

これは、当社がいまご支援しているある企業のアライアンス責任者からの言葉です。異業種連携や共同事業の立ち上げなど、他社とのアライアンスは中小企業にとって大きな成長機会となる一方で、「動き出したものの、どう進めて良いかわからなくなる」という壁に直面するケースが少なくありません。

実際、筆者が過去に経験してきたなかでも、トップ同士の合意をもって華々しくスタートしたものの、現場での具体的な進め方が定まらずに停滞してしまっていたプロジェクトがいくつもありました。自社単独の事業運営と異なり、アライアンスは複数の意思決定者が関わるため、進行がスムーズにいかない要因が多く潜んでいます

しかし、こうした難易度の高いアライアンス案件においても、両社の間で正しく信頼関係を構築することができれば、成功の確度を高めることは不可能ではありません。逆に、信頼が十分に構築されていない状態では、相互の不安が拭えず、決断のスピードが鈍ったり、議論が迷走したりすることもあります。今回のコラムでは、他社とのアライアンスを成功させるために必要な信頼構築のポイントについて整理していきます。

目次

なぜ他社とのアライアンスは前に進めるのが難しいのか

アライアンスが停滞する最大の理由は、「他社の意思が介在するにもかかわらず、それを統制する強制力が弱い」という点にあります。具体的に、以下のような要因が影響を与えます。

① M&Aとは異なり、強制力が働きにくい

M&A(合併・買収)では、株式や資本関係を通じて一方の企業が他方をコントロールできます。また、対等合併の場合にも、1つの会社になった以上は多少の困難はあっても一緒にやっていくしかありません。

しかし、アライアンスはあくまで「対等な関係」であり、双方が独立性を維持したまま協力を進めるため、合意後に「やはりうまくいかない」となった場合でも、比較的容易にプロジェクトを撤回・縮小できてしまいます

② 両社の意向が複雑に絡み合う

アライアンスでは、表向きは「相互にメリットがある」とされるものの、実際には社内の異なる利害関係者がそれぞれの思惑を持っているケースが多く見られます。たとえば、以下のような状況です。

  • トップはアライアンスを推進したいが、現場の担当者が消極的(業務負荷の増加や調整の煩雑さを懸念)
  • 営業部門は歓迎するが、開発部門は慎重(開発リソースや技術流出リスクを懸念)
  • 窓口担当者が良好な関係を築いているが、各社上層部の意向が異なる(特に大企業と中小企業の提携では起こりがち)

このように、アライアンスの進行には、単に「企業対企業」の調整だけでなく、「企業内の部門間調整」も必要になるため、進行がスムーズにいかなくなるのです。

③ トップの合意はあっても、現場レベルで課題が噴出する

経営層レベルでの合意があったとしても、実際にプロジェクトを遂行する現場レベルでは、多くの課題が浮上します。特に、以下のような点が問題になりがちです。

  • 意思決定プロセスが曖昧で、どこまで誰が決めるのか不明確
  • 役割分担が曖昧なまま進み、実行フェーズで責任の押し付け合いが発生
  • コミュニケーション不足による誤解や認識のズレ

このように、アライアンスの進行には、「社内調整」「対外調整」「実行フェーズの運営」と、複数の異なる軸での課題解決が求められるため、単独事業よりもハードルが高くなるといえます。

アライアンスを成功に導く信頼活用

アライアンスを成功させるためには、相手企業と「信頼」を醸成し、プロジェクトを前進させるための基盤を作ることが不可欠です。具体的に、以下の4つのポイントを意識すると良いでしょう。

① 各社内部での意見を一本化する

企業間で交渉を進める前に、まずは「自社内の意見を統一する」ことが大切です。大きな企業であればあるほど難しい部分はありますが、窓口担当者・責任者・経営層が一貫したスタンスで臨まないと、相手方に「本当にこの企業は前向きなのか?」と疑念を持たれ、信頼を損ねる可能性があります。

② プロジェクト責任者同士が相互理解を深める

実務レベルの担当者同士が密に連携できるかどうかは、アライアンスの成否を大きく左右します。形式的な会議の場だけでなく、オフの場でのカジュアルな対話を重ねることで、お互いの価値観や考え方を理解しやすくなります。「この人となら一緒に進められる」、「この人なら、少なくとも個人レベルではこちらが一方的に不利になる形にはしないだろう」という信頼関係が築ければ、企業間の調整もスムーズになります。

③ 進捗を可視化し、タスクを明確にする

アライアンスが進まない理由の一つに、「何をどう進めるべきかが曖昧である」という点があります。WBS(作業分解構成図)やガントチャートを活用し、各社が担うタスクを明確にすることで、プロジェクトの進行度を管理しやすくなります。また、「具体的な進捗が見える」ことで、相手方の「能力」に対する信頼も高まります。

④ 両社の取り組みを社外にPRする

アライアンスの進展を社外に公表することは、外部からの興味関心をひき、それが社会にとって有益である場合には信頼獲得に効果があります。しかもそれに加え、関係者のコミットメントを強化し、「後には引けない」状況を作り出すことができます。

特にBtoB企業では、共同プレスリリースや展示会での共同出展などを行うことで、外部からの評価を高めると同時に、プロジェクト推進のモチベーションを高める効果があります。

アライアンスを成功に導く信頼活用

結び:信頼を潤滑油としてアライアンスを機能させるために

以前と異なり、企業単独でビジネスを進展・拡大させることは難しい時代になってきています。そして他社とのアライアンスにより道を切り拓いていくことは、今や日常的に用いられる手段のひとつになっており、これを積極的に活用することが成長のカギになりえます。

しかし、単なる合意のみに終わらず、確実に実行に移し成果を得るためには、信頼関係を構築しながら進めることが極めて重要です。アライアンスがうまくいっていない、停滞しているといった場合には、相手方との信頼をうまく構築できているか、今一度見直してみてはいかがでしょうか。

著者プロフィール

トラスタライズ=信頼を対価に変えるコンサルタント
トラスタライズ総研株式会社

代表取締役 池尻直人

企業の「信頼を対価に変える」専門コンサルタント。
独自の「トラスタライズ手法」を用いて、見えない信用や信頼を、目に見えるカタチに変え、対価へと変えることで多くの経営者から注目を集めている。企業経営において社会・顧客双方の価値の創出が求められる時代にあって、「信頼」を切り口に、顧客企業が売上・利益を向上させられる手法の研究・提言を行っている。

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代表取締役 池尻直人

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ポイント4:信頼から確実に対価を得るための訴求のやり方
ポイント5:信頼活用に向けた社内の意識改革のやり方

価 格:¥2,200 (税込)
発売元:日本コンサルティング推進機構


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