第103回 事業承継した二世社長が「自分の経営」を始められない理由

事業承継した二世社長が「自分の経営」を始められない理由

事業承継した社長の多くは、自分なりの考えを持っている。しかし、それが正しいのか確信が持てないまま、先代のやり方で日々が過ぎていく。言葉にはできても、それが磨かれないからかもしれません。

「自分なりに考えてはいるんです。でも、これで合っているのかが分からなくて。」

事業を承継して数年が経った社長から、こうした相談を受けることがあります。先代への敬意はある。引き継いだやり方にも合理性があることは分かっている。一方で、自分なりの考えも少しずつ芽生えてきた。こう変えたい、こうありたいという構想もある。夜中にひとり、ビジネス書の付録の経営計画フォーマットに書き出したりすることもある。

ただ、それが本当に正しい方向なのか、確信が持てない。先代のやり方を変えることへの不安もある。だから結局、日々の業務は先代のやり方で回っていて、自分の構想は外に出せないまま時間だけが過ぎていく。

「自分の経営」をなかなか確立できない承継社長には、共通の原因がありました。

目次

確信が持てない、2つの理由

後継者には考えがある。しかし、それを確かめる手段がありません。

まず、先代の経営が言語化されていない。なぜあの取引先を優先するのか。なぜこの事業に投資し、あちらには手を出さないのか。その判断基準は先代の頭の中にしかなかった。マニュアルにも計画書にも書かれていない。後継者は「やり方」を引き継いだつもりでも、その背後にある判断の根拠まで受け取れていないことが少なくありません。

判断の根拠が見えなければ、「ここは変えていい」と「ここは守るべき」の区別がつかない。自分の考えが正しいかどうか以前に、比較する基準がないのです。

もう一つは、自分の考えを誰かにぶつける機会がないこと。頭の中で考えているだけでは、自分の言葉の甘さに気づけません。「それは本当にそう思いますか」「なぜそう考えるのですか」と問い返されて初めて、自分が何を言いたかったのかが鮮明になっていく。しかし、社内でそれができる相手は限られています。先代のやり方に愛着を持つ古参社員に「変えたい」とは言いにくいし、身近な人ほど本音を預けにくい。

結果として、後継者の考えは頭の中で堂々巡りを続ける。ある場面では先代を踏襲し、別の場面では自分の判断で動く。しかしその使い分けの基準が整理されていないから、社員から見れば方針が揺れているように映る。

先代の経営の中身が見えない。自分の考えも客観的に検証できていない。比べようがないし、超えようもない。これが「考えはあるのに踏み出せない」の正体です。

「自分の経営」は、「言葉にして、磨き上げる」ことでかたちになる

ではどうするか。当社の実際のご支援の例を見てみましょう。

ある製造業のN社長は、承継後しばらく経ってから経営計画の策定に取り組みました。これまでにも計画づくりを試みたことはあったものの、自分なりに考えてはいるけれど整理しきれなかったり、言葉にしてみるとどこか腑に落ちない感覚が残っていたそうです。

まず取り組んだのは、言葉にすることです。先代は何を大事にしてきたのか。自社が積み上げてきた強みは何か。会社として、経営者として、どうありたいのか。こうした問いに一つずつ向き合い、頭の中にあるものを言葉にして外に出していきました。

しかし、言葉にしただけでは「これだ」という確信にはなりません。ここから、その言葉を磨き上げるプロセスが必要になります。

当社が支援にあたるなかでは、社長が出した言葉に対して、問い返し、掘り下げることを繰り返しました。

「それは本当に御社の強みといえますか、選ばれる理由になっていますか」
「その方針と、先ほどの目標は整合してないように思えますがいかがですか」

このように問い返されることで、社長自身が「自分はこう言ったけれど、本当に言いたかったのはこっちだ」と気づいていく。前に「これだ」と思って言葉にしたことが、他との関係性でしっくりこなくなることもあります。それをまた全体像とのバランスのなかで塗りなおし、想いを的確に表現できる、力のある言葉に変えていったのです。

N社長は当時のことをこう振り返っています。

「自分の頭の中にあったものが形になり、言葉として整理されたことで、次に何をすべきかが見えてきた。ストンと腹落ちする感覚があった」

対話を通じて言葉が磨かれたとき、それは「先代から受け継いだもの」と「自分が新たに加えたもの」に分かれ、初めて自分自身の経営の軸が見えたというのです。

「自分の経営」は、頭の中で考え続けるだけでは始まりません。まず言葉にし、誰かとの対話を通じて磨き上げる。そのプロセスを経て初めて、先代の会社は、自分の会社になっていくのです。


自分の経営が「かたち」になっているか、次の3つの問いで確かめてみてください。

□ 先代から受け継いだもの・自分が変えたいものを、それぞれ言葉にできるか
□ その言葉を、誰かにぶつけて議論を重ねたことがあるか
□ 自社が目指す方向に、社長自身が本当に腹落ち・納得しているか

3つ目の問いに自信をもってYesと言えないなら、それは1つ目と2つ目がまだ足りていないサインかもしれません。N社長がそうだったように、言葉にし、問い返され、磨き上げるプロセスを経て初めて、確信が生まれるのです。

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著者プロフィール

トラスタライズ総研株式会社
代表取締役 池尻直人

社外経営企画室長・経営企画パートナー
独自の「トラスタライズ手法」を用いて、見えない信用や信頼を、目に見えるカタチに変え、対価へと変えることで多くの経営者から注目を集めている。企業経営において社会・顧客双方の価値の創出が求められる時代にあって、顧客企業が持続的に成長し、信頼を築き上げていけるよう、経営企画機能を伴走型で提供している。

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社外経営企画室長・経営企画パートナー
独自の「トラスタライズ手法」を用いて、見えない信用や信頼を、目に見えるカタチに変え、対価へと変えることで多くの経営者から注目を集めている。企業経営において社会・顧客双方の価値の創出が求められる時代にあって、顧客企業が持続的に成長し、信頼を築き上げていけるよう、経営企画機能を伴走型で提供している。

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