第61回 経営者の能力を信頼につなげるための3つの着眼点

経営者の「能力」に対する信頼は、過去・未来・実行の3つの視点で強化できる

経営者の「能力」に対する信頼は、過去の実績・未来への道筋・実行の透明性の3つの視点で強化していくことができます。

「このままだとうちの会社はもうだめだ」
「社長の考えていることがまったくわからない」

経営者が社内に対する信頼を確立できていないとき、こうした声が従業員の間でささやかれるようになります。経営者として従業員から信頼を得るために重要なことの1つは、「この人についていけば会社が成長する」と思ってもらうことです。そして、そう思ってもらうためには、経営者の「能力」に対する信頼が不可欠です。

では、その信頼の対象となる「経営者の能力」とは具体的にどのようなものなのでしょうか? それは、単なる知識や経験ではなく、戦略を描き、実行し、成果を生み出す力です。加えて、そのプロセスを従業員に納得感・期待感をもって伝える力も求められます。

本コラムでは、経営者に対する社内からの信頼を支える「能力」と「姿勢」のうちの「能力」、「経営者の能力をどのように示し、従業員の信頼を獲得するか」について解説します。

目次

過去の実績を示し、能力を証明する

 「能力がある経営者」と聞くと、多くの人は経営に携わっていた会社の大きさや、そこで達成した業績の数字を思い浮かべるでしょう。確かに、過去の成功事例や売上・利益の向上は、経営者の能力を示す大きな要素です。

 とはいえ、仮に今のところ目立った実績がない場合でも、過去の数値を追っていくことで信頼感を醸成することは可能です。しかし、ただ単に「昨年の売上は〇〇円でした」「前年比〇%成長しました」と伝えるだけでは不十分です。

重要なのは、「なぜその結果が出たのか」を説明することです。

例えば、

❌「昨年の売上成長率は10%でした」
⭕「昨年の売上成長率は10%でした。これは、新規市場への進出と〇〇のプロモーション施策が奏功した結果です」

このように、数字の裏にあるストーリーを共有することで、「この社長の決断には根拠があり、再現性がある」と従業員に納得してもらいやすくなります。

また、就任間もない場合などは、「これまでの意思決定プロセス」や「今後の改善のプロセス」を丁寧に伝えることも有効です。

例えば、

✅「昨年は売上が伸び悩んだが、顧客層のニーズ分析を強化し、今年は重点ターゲットを再設定した」
✅「新規事業の立ち上げで苦戦したが、マーケットのトレンドを再分析し、商品コンセプトを見直した」

こうした取り組みや意思決定の過程を明確に示すことで、根拠に基づく経営をしている点は伝えることができます。論理展開についてはできるだけ磨きをかけていくべきですが、経営者の能力への信頼を一定程度高めることができます。

未来像の伝え方も能力に対する信頼を左右する

従業員が自社の進む方向性に疑問を持ったままでは、日々の業務に納得感が生まれません。経営者として「会社の未来をどう作っていくのか」を明確に伝えることが、信頼を築くうえで効果的です。

ここでも重要なのは、単なる目標設定ではなく、戦略の背景をしっかりと説明することです。

例えば、

❌「今後3年間で売上を2倍にする」
⭕「今後3年間で売上を2倍にする。そのために、当社の強みである〇〇を活かし、△△市場へ進出する計画を立てている」

このように、「なぜこの戦略を選んだのか」「どう実行するのか」をセットで伝えることが重要です。

また、戦略を示す際には、「業界の動向」「競争環境」「自社の強み」を明確にし、根拠を持たせることで、具体性・納得感はより高まります。

✅「〇〇市場は今後5年間で年平均10%成長する見込み。競争が激化する前に、当社の技術力を活かしてシェアを獲得する」
✅「競合他社は△△に注力しているが、当社は□□の分野に強みを持つため、差別化が可能と判断した」

このように説明することで、「社長の決断には論理的な裏付けがある」と感じてもらいやすくなります。もちろん、根拠に妥当性があることは必要です。

戦略実行の透明性を確保し、従業員の納得感を高める

経営計画を策定し、戦略を明確にしたとしても、それを実行する力の有無やプロセスが不透明だと、この点でも従業員の信頼を損ねることがあります。

例えば、「計画は立派だが、実際に進んでいるのかわからない」という状態では、不安や疑念が生まれます。計画への不信は、最終的にはそれを提唱する経営者に向かっていくのが辛いところです。

そこで重要なのは、戦略の進捗を可視化し、定期的にフィードバックを行うことです。

✅「四半期ごとに経営計画の進捗を共有し、達成度や課題を説明する」
✅「新たな判断が必要になった場合、その理由を社内で明確に示す」

特に、計画が変更される場合は、「なぜ変更が必要なのか」「どのような判断基準で意思決定したのか」を説明することが重要です。

例えば、

❌「当初の計画は変更することになった」
⭕「市場環境の変化により、当初予定していた〇〇の施策は見直すことにした。その代わりに、△△の手法を採用することで、より効果的に目標を達成できると判断した」

このように、計画変更の背景を明確に示すことで、「経営の方向性がしっかり考えられている」と感じてもらいやすくなります。

場合によっては、すべての従業員から理解を得ることは難しいという場合もあるでしょう。しかしそれでも、経営者はできる限り率直に呼びかけや説明を繰り返すべきです。それにより、少なくとも一部の意欲ある従業員には刺さるものが生まれてくるでしょうし、その結果全体の信頼レベルの底上げにもつながっていくはずです。

経営者の能力に対する信頼を築くためには、「過去の実績を示す」「未来像とそこに至る道筋を明確に伝える」「実行部分の透明性を確保する」という3つの要素が重要です。

「この経営者は、正しい判断をしている」「ついていけば会社が成長する」と思ってもらうことで、従業員の信頼が生まれ、組織全体のモチベーションも向上します。

経営者に対する信頼をさらに強固にするうえで、「能力」と「姿勢」はその両輪となります。適切な訴求をしていくことで、経営者ご自身への信頼をゆるぎないものにしていきましょう。

著者プロフィール

トラスタライズ=信頼を対価に変えるコンサルタント
トラスタライズ総研株式会社

代表取締役 池尻直人

企業の「信頼を対価に変える」専門コンサルタント。
独自の「トラスタライズ手法」を用いて、見えない信用や信頼を、目に見えるカタチに変え、対価へと変えることで多くの経営者から注目を集めている。企業経営において社会・顧客双方の価値の創出が求められる時代にあって、「信頼」を切り口に、顧客企業が売上・利益を向上させられる手法の研究・提言を行っている。

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代表取締役 池尻直人

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目次
ポイント1:「対価に変えられる信頼」の見つけ方
ポイント2:信頼を効率的に対価に変える戦略の描き方
ポイント3:信頼を可視化・証明する仕組みの作り方
ポイント4:信頼から確実に対価を得るための訴求のやり方
ポイント5:信頼活用に向けた社内の意識改革のやり方

価 格:¥2,200 (税込)
発売元:日本コンサルティング推進機構


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