第105回 「壮大なビジョン」の代わりに経営を動かしたもの

「壮大なビジョン」の代わりに経営を動かしたもの

事業を承継した社長が組織を動かそうとするとき、つい大きな改革から手をつけたくなります。しかし、ある会社で実際に組織を変えたのは、月に1回・1時間の定例会を「やめずに続けた」という、ただそれだけのことでした。

「何か変えなきゃいけないとは思うんですが、何から手をつければいいのか」

事業を引き継いだ社長から、こうした言葉を聞くことがあります。新しい人事制度を導入してみる。研修を始めてみる。方針発表会を開いてみる。しかし、実際にやってみても現場の反応は薄く、半年もすると以前と何も変わっていない状態に戻っているものもある。大きく変えようとするほど、組織の慣性に弾き返されている感覚が残ります。

ところが、当社のお客様であるK社長の会社では、社長交代後から売上が毎年伸び続けています。「何か大きく変えられたんですか」と尋ねると、返ってくるのは「いえ、特に大きなことは…」という言葉。それでも掘り下げていくと、続けてきたのは、毎月1時間の定例を始めて、それをキャンセルせずに回してきた、ということでした。

成果が出るかどうかも疑わしいほどの小さな一手が、結果としていちばん長く効いていた。会社経営では、しばしばこうしたことが起こります。

目次

「月1時間」で、何が変わったか

最初のうち、定例は社長がテーマを考えて話し、社員が聞いているだけの場でした。ところが「毎月必ずある」と社員が理解した頃から、空気が変わってきたそうです。「これ、次の定例で相談しよう」「あの件は定例まで待って整理しよう」と、社員のほうが議題を準備し始めるようになったのです。

これは、突発的な面談や年に一度の方針発表会では起こりません。予測できるリズムがあるからこそ、社員は「準備して持ち込む」という行動が取れるようになります。場の存在そのものが、社員の主体性を引き出していった、と言ってもよいかもしれません。

また、社長に対する社員からの見え方にも、いつのまにか化学反応が生まれていました。K社長自身は「ただ話を聞いているだけ」のつもりでしたが、社員のほうは「自分たちの仕事を社長がちゃんと見てくれている」と感じるようになっていったのです。監視ではなく、関心。特に承継したばかりの場合など、信頼基盤が小さい社長にとって、信頼の端緒はこうした地味な反復のなかにあります。壮大なビジョンを語るよりも、「毎月1時間、あなたの話を聞きます」を続けるほうが、社員からの信頼の蓄積には効くことがあるのです。

そのようにして、「定例会は好機」と言わんばかりに社員が判断事項を多く持ってくるようになったため、K社長は社員の前で「なぜそう判断したか」を口にする機会が自然に増えていったそうです。そうなると社員は決定そのものだけでなく、その背後にある考え方を見るようになります。すると次第に、社員のほうから「社長ならこう考えるだろう」と先回りして動けるようになっていきました。定例という場が、社長の考えを組織に届け、組織を活性化させる回路として機能したのです。

場の存在そのものが、社員の主体性を引き出す

「リズム」が先、「計画」は後でいい

多くの会社では、まず計画をつくり、その実行のために会議体を設計する、という順番が当たり前になっています。経営計画があるから経営会議がある。人事制度があるから人事ミーティングがある。

しかしK社長の会社では、順番が逆でした。まず「場」を続け、そこで語られたことが、あとから計画や仕組みのかたちを取っていったのです。経営を「かたちにする」というと、立派な計画書や精緻な制度を思い浮かべがちですが、会社や社長の置かれた状況によっては、最初の一歩は「場」をつくることでもいいのかもしれません。そしてその場を続けることで、今まで語られなかったことが言葉になり、言葉が方針になり、方針が仕組みになっていきます。

始めるのに特別な準備はいりません。曜日と時間を決める。準備しすぎない。堅苦しい報告会にしない。「最近どうですか」から始めてもいい。ただ一点、いちばん大事なのは、「忙しいから」、「それほど重要なテーマがないから」と、安易にキャンセルしないことです。続けることそのものが、社員に対しての一番のメッセージになります。

経営は長期戦です。社長に、社員と続けている「小さなリズム」が1つでもあるか。なければ、計画づくりよりも先に、その1つをつくってみるところから始めてもいいのかもしれません。

社長に、社員と続けている「小さなリズム」が1つでもあるかがポイント

自社に経営を動かす「場」があるか、次の3つの問いで確かめてみてください。

  • □ 社員が自分から議題や相談を持ち込める定期的な場がある
  • □ 社長がどう考えて判断しているかが、社員にも見えるかたちで共有されている
  • □ 経営を動かすために、社長として「やめずに続けていること」が1つでもある

すべてにYesと言えなかったなら、まずは1つ、小さな「場」をつくるところから始めてみてはいかがでしょうか。

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著者プロフィール

トラスタライズ総研株式会社
代表取締役 池尻直人

社外経営企画室長・経営企画パートナー
独自の「トラスタライズ手法」を用いて、見えない信用や信頼を、目に見えるカタチに変え、対価へと変えることで多くの経営者から注目を集めている。企業経営において社会・顧客双方の価値の創出が求められる時代にあって、顧客企業が持続的に成長し、信頼を築き上げていけるよう、経営企画機能を伴走型で提供している。

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トラスタライズ総研株式会社
代表取締役 池尻直人

社外経営企画室長・経営企画パートナー
独自の「トラスタライズ手法」を用いて、見えない信用や信頼を、目に見えるカタチに変え、対価へと変えることで多くの経営者から注目を集めている。企業経営において社会・顧客双方の価値の創出が求められる時代にあって、顧客企業が持続的に成長し、信頼を築き上げていけるよう、経営企画機能を伴走型で提供している。

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