第101回 「経営企画」は大企業だけのものか ── 中小企業の経営が動き出す瞬間

「経営企画」は大企業だけのものか ── 中小企業の経営が動き出す瞬間

経営企画は大企業の専売特許ではありません。「経営企画室」がなくても、その機能が動き始めた瞬間、経営の景色は一変します。

「うちみたいな規模で、経営企画なんて大げさですよ」

中小企業の経営者にそう言われることがあります。経営企画室といえば、大企業のフロアの一角で、スーツ姿の人たちが資料を作っている部署。自分たちの会社とは関係ない世界だ、というイメージは確かにあります。

気持ちはよくわかります。社員数十人の会社に「経営企画室」を新設するのは、たしかに現実的ではないかもしれません。

でも、こんな場面に覚えはないでしょうか。

「来期どうするか、頭の中にはあるんだけど、まとめる時間がない」
「毎月の数字を見てはいるけど、振り返りの場がないまま翌月になる」
「社員に方針を伝えたいけど、言語化しきれないまま年度が変わった」

これらはすべて、経営企画の機能が不在であることの症状です。部署がないこと自体は問題ではありません。部署がなくても済んでいる、と思い込んでいることが問題なのです。

実は、中小企業の社長はすでに毎日「経営企画」をしています。資金繰りを考え、営業方針を練り、人の配置を決め、新しい取引先との交渉に臨む。頭の中では常に経営の全体像を描いている。ただ、それを一人でやっているから、言葉にならない。計画にならない。仕組みにならない。結果として、社長の頭の中にある「経営」が、いつまでも形にならないまま時が過ぎていきます。

目次

中小企業に必要なのは「経営企画機能」

大企業の経営企画室が担っている仕事を列挙すると、中期経営計画の策定、予算管理、新規事業の検討、経営会議の運営、部門間の調整、M&Aの検討…と多岐にわたります。これを見て「うちには無理だ」と感じるのは当然です。

しかし、中小企業にこれらがすべて必要かというと、そうでもありません。最低限必要なのは、以下の3つの機能です。

ひとつは、社長の頭の中を「言葉」にする機能。 方針、判断基準、将来像。社長が当たり前だと思っていることを、社員や社外に伝わる形に翻訳する。これがないと、社長の想いは社長の中に閉じたままになります。

ふたつめは、言葉を「数字と計画」に落とす機能。 ありたい姿を描いたら、そこに至る道筋を数字と期限で設計する。売上・利益の見通し、投資の優先順位、人員計画。構想を実行可能な計画に変換する作業です。

みっつめは、計画を「回す」機能。 月次で進捗を確認し、ズレがあれば修正する。社長一人が頭の中で追いかけっこをするのではなく、数字と対話によって組織全体で計画を回していく。これができなければ、立派な計画を作っても、絵に描いた餅で終わります。

この3つの機能の必要性に関しては、年商数億円の会社でも、年商100億円の会社でも、本質的には変わりません。違うのは規模と複雑さだけです。そして、この3つがそろっている会社は、経営企画室という看板がなくても、経営が回っています。逆に、どれかが欠けていれば、社長が疲弊し、組織が停滞し、経営が属人的なまま膠着していきます。

経営企画機能が動き出すと、何が変わるか

では、この3つの機能が実際に動き始めると、会社には何が起きるのか。

よくある変化のひとつは、社長の「つもり」と現実のズレが見えるようになることです。

たとえば、「うちの強みは技術力だ」と社長が信じていたとします。しかし、方針を言葉にしようとすると、技術力の何が強みなのか、それが顧客にどんなメリットをもたらしているのかを、具体的に説明できないことに気づく。あるいは、社員に聞いてみると「うちの強みですか? …納期対応ですかね」と、社長の認識とまったく違う答えが返ってきたりする。

これは必ずしも悪いことではありません。ズレに気付かないまま経営を続けるほうが、よほど危ういともいえます。ズレが見えること自体が、経営企画機能が動いている証拠なのです。

2つめの変化は、社長が「考える時間」を手にすることです。

多くの中小企業の社長は、目の前の判断に追われています。見積もりの確認、クレーム対応、採用面接、資金繰り。どれも大事で、どれも緊急。そして、経営の3年後・5年後を考える仕事は「重要だけど緊急ではない」ため、いつも後回しになる。いつかやろうとは思いつつ、そのいつかは永久に訪れない。こんな状態に陥ります。

経営企画機能が動き始めると、この状況を変えられます。経営企画が、月に1回でも、数字を見ながら振り返る場をセットできれば、判断材料が整理された状態で、「今月何が起きて、来月何をすべきか」を社長がその場で決められるようになります。社長だけが悩み、時間を浪費する状態を抜けられます。

3つめの変化は、社外との対話の質が上がることです。

銀行との面談を想像してください。単に「今期は売上が少し伸びそうです」と口頭で伝えるのと、3年間の計画と実績の対比を数字で示しながら「計画に対して進捗はこうで、来期はここに投資します」と語るのとでは、相手の反応はまるで違います。

経営企画機能が動いているだけで、金融機関から見た自社の「見え方」が変わります。同じことは、取引先や採用候補者に対しても言えます。計画と数字で自社を語れる会社は、それだけで信頼の土台が厚くなるのです。

これらの変化は、大きな投資や大胆な改革の結果として起きるわけではありません。社長の頭の中にあったものを言葉にし、数字にし、毎月振り返る。たったそれだけのことの積み重ねで、経営は着実に変わっていくのです。

「かたちにする」を動かす最初の一歩

大企業には経営企画室がある。では中小企業にはないのかといえば、そうとも限りません。社長自身が担うケースもあれば、社内の幹部が兼務するケースもある。外部のパートナーと一緒に動かしている会社もあります。やり方は会社ごとに違っていいと思います。

大事なのは看板ではなく、機能が動いているかどうかです。

最初の一歩は、まずは少しだけ集中できる時間をつくって、社長の頭の中にある「ありたい姿」を、誰かに話してみること。紙に書いてみること。それだけで、自分が何を言語化できていて、何がまだ曖昧なのかが見えてきます。

経営計画は、はじめから完璧なものを作る必要はありません。粗くてもいいから、言葉にして、数字にして、月に一度振り返る。その繰り返しで磨いていくものです。

社長の頭の中にある経営は、誰かと一緒に形にしたほうが、早く、確実に、そして遠くまで届くものになります。


あなたの会社で、経営企画機能は動いていますか?

  • □ 自社の強みや勝ち筋を、社長とそれ以外の社員が同じ言葉で語れますか?
  • □ 月次で経営の数字を振り返り、翌月のアクションにつなげる場がありますか?
  • □ 3年後のありたい姿を、社員や金融機関に「言葉」と「数字」で伝えられますか?

すべてにYesと言えなかったなら、経営企画の「機能」がまだ動き出していないサインかもしれません。

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著者プロフィール

トラスタライズ総研株式会社
代表取締役 池尻直人

社外経営企画室長・経営企画パートナー
独自の「トラスタライズ手法」を用いて、見えない信用や信頼を、目に見えるカタチに変え、対価へと変えることで多くの経営者から注目を集めている。企業経営において社会・顧客双方の価値の創出が求められる時代にあって、顧客企業が持続的に成長し、信頼を築き上げていけるよう、経営企画機能を伴走型で提供している。

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トラスタライズ総研株式会社
代表取締役 池尻直人

社外経営企画室長・経営企画パートナー
独自の「トラスタライズ手法」を用いて、見えない信用や信頼を、目に見えるカタチに変え、対価へと変えることで多くの経営者から注目を集めている。企業経営において社会・顧客双方の価値の創出が求められる時代にあって、顧客企業が持続的に成長し、信頼を築き上げていけるよう、経営企画機能を伴走型で提供している。

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価 格:¥2,200 (税込)
発売元:日本コンサルティング推進機構


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