第109回 属人化が、会社の成長を止めるとき

属人化が会社の成長を止めるとき

会社の成長が止まる原因は、市場にあるとは限りません。新しい仕事に対応できる人が1人しかいないと、その人がさばける量で、会社の成長も止まります。

新しい引き合いが来た。これまで取れなかった規模の案件、やったことのない地域からの問い合わせ。社長としては取りに行きたい。ところが、その話に対応できる人が社内に1人しかいない。そしてその1人は、すでに手一杯・・・

結局、「あの人の手が空いたら」と引き合いを後回しにする。あるいは無理に詰め込んで、別の仕事にしわ寄せが出る。こうなってしまうとせっかくのチャンスを取り切れません。

その場では、新しい人を入れたり、業務分担を見直すといったことをします。しかしなぜか改善されず、時間が経つと忘れてしまい、仕事を取り切れない状態が慢性化していきます。そして、いざ伸び悩みの原因を探ったときには、慢性的な要素には目が向かず、市場や景気のせいにしてしまう、といったことが中小企業では本当によく起こりがちです。しかし原因は、もっと近いところ、社内にあるのかもしれません。

目次

売上の上限を決めるもの

以前のコラムで、属人化が見過ごされる理由を取り上げました(第98回)。「あの人に任せておけば安心」という言葉の裏で、その人にしかできない仕事が増えていく。そして、いざその人が辞めたら業務が止まってしまうことにもなりかねない、という話でした。

今回はその続きです。会社が成長しようとするとき、属人化はもうひとつ別の問題を引き起こします。それは、対応可能な人の上限が、会社の成長において天井になってしまうという問題です。

たとえば営業について。新しい受注を取れる人が1人だけなら、その人が動ける時間の分しか、売上は増やせません。市場にどれだけ需要があっても、受ける人がいなければ当然取れません。

これは営業だけの話ではありません。難しい現場を仕切れるのは1人だけ、複雑な検査に対応できるのは1人だけ・・・といった具合に、中小企業の場合はどこかの仕事が個人に依存してしまう、ということはどうしても起こりえます。その結果、会社の成長は、たいてい「一番できる人」がさばける量のところで止まることになります。需要が足りないのではなく、その需要を受ける人が足りない。同じ「伸びない」でも、原因はまったく違います。

逃した売上は数字に残らない

やっかいなのは、以下の3つの理由から、このタイプの伸び悩みが見えにくいことです。

1つめの理由として、取れた受注は売上の数字になりますが、人手が足りずに見送った案件はどこにも残りません。実際に出ていった損失なら痛みますが、「取れたはずなのに取らなかった」分は記録に残らない、または社長まで報告されないことが少なくなく、損をした実感がわきません。

2つめは、その1人が優秀であるがゆえに、目の前の仕事はきちんと片付くという点です。外から見ると問題がないように見えてしまうので、本当は「これ以上は増やせない状態」で止まっているのに、そうとは気づけません。

3つめの理由は、責任感の強い人ほど忙しさを顔に出さず、なんとか回してしまうことです。社長から見れば「頼れる人がいる」という状態ですが、本人から見れば「自分がやった方が早い」、もしくは「他の人ができるようになったところで自分の評価にはつながらない」といった考えがあるため、両者の見方がかみ合わず、伸び悩みはますます見えなくなります。

成長を支えてきた人のところで、次の成長が止まる。優秀な人に頼って伸びてきた会社ほど、この壁にぶつかります。

キーパーソンの仕事を分けて、渡せるところから任せる

「手が回らないなら採用しよう」と考えるのは自然ですが、新しい人を入れてもその人を育てられるのは結局あの忙しい1人だけ・・・ということになりがちです。こうなってしまうと、「教える時間がない」、「人手は増えてもさばける量は変わらない」という状態が続くことになります。

最初に着手すべきは、その1人が抱える仕事を、「その人にしかできない仕事」と「ほかの人にも渡せる仕事」に分けること、であるケースが多いように思います。

最後の判断や、長い付き合いがないと進まない交渉など、他の人には渡せない仕事もゼロではないでしょう。しかし、1人で抱えている仕事は、多くの場合「ひと固まり」ではありません。情報を集める、下準備をする、決まった手順で進める部分は、ほかの人にも渡せます。

しかし、教える側の人に時間がなかったり、教えるのを面倒に思ってしまう場合、ちょっとした業務は引き継がれずそのままになることが少なくありません。妥協を許さず、業務を切り分ける指示を出すのは、組織の上層に位置するリーダーの役目でしょう。少しずつでも仕事を別の人に移すだけで、その1人の時間は空き、空いた時間を判断や、人を育てることに使えるはずです。

それができた段階から、その人の役割を「自分でやる人」から「できる人を増やす人」に徐々にシフトさせていくことが大切です。1人で年に10件取っていた人が、3人を育てて1人前にできるならば、会社が取れる仕事の数は大きく増えますが、いきなりではできません。制約となっている部分を、その1人の業務状況と能力を見極めながら、丁寧に可視化していく必要があるのです。

伸び悩みを感じたら、市場や景気を見ることも大事ですが、ぜひ一度社内も見てみてください。

もし今、注文が倍に増えたら、自社はどの程度受け切れるでしょうか。受けきれないとなれば、誰の手が回らなくなりそうでしょうか。会社の伸びしろは、市場ではなく社内のその1人で止まっているのかもしれません。

自社の伸び悩み、どこで止まっているか確かめてみませんか?

□ 「この案件はあの人しか対応できない」を理由に、見送ったり後回しにした仕事がある

□ 新しい引き合いに動けるかどうかが、特定の1人の忙しさで決まる

□ 売上を伸ばそうとすると、まず決まった誰かの負担が増える

1つでも当てはまったなら、会社の伸びしろが、市場ではなく社内の誰か1人で止まっているサインかもしれません。

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専門家インタビュー(外部サイト)

著者プロフィール

トラスタライズ総研株式会社
代表取締役 池尻直人

社外経営企画室長・経営企画パートナー
独自の「トラスタライズ手法」を用いて、見えない信用や信頼を、目に見えるカタチに変え、対価へと変えることで多くの経営者から注目を集めている。企業経営において社会・顧客双方の価値の創出が求められる時代にあって、顧客企業が持続的に成長し、信頼を築き上げていけるよう、経営企画機能を伴走型で提供している。

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トラスタライズ総研株式会社
代表取締役 池尻直人

社外経営企画室長・経営企画パートナー
独自の「トラスタライズ手法」を用いて、見えない信用や信頼を、目に見えるカタチに変え、対価へと変えることで多くの経営者から注目を集めている。企業経営において社会・顧客双方の価値の創出が求められる時代にあって、顧客企業が持続的に成長し、信頼を築き上げていけるよう、経営企画機能を伴走型で提供している。

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