第110回 賃上げの前に、決めておくべきこと

賃上げの前に、決めておくべきこと

賃上げに踏み切ったのに、社員の表情がいまひとつ晴れない。その違和感の原因は、上げた金額ではなく、給与を決める「順番」にあるのかもしれません。

「結構上げたのに、なかなか響かないんですよね・・・」

賃上げを実施した経営者から、こうした話を聞くことがあります。世間の相場をにらみ、決して少なくない額を上げた。それでも社員の反応は薄く、しばらくすると一人、また一人と「条件のいい会社」へ移っていく。

金額が足りなかったのか。もっと上げれば引き止められたのか。

多くの場合、問題はそこではありません。

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給与で応えられるのは「今」だけ

給与の額は、「いまのあなたにいくら払うか」という問いへの答えです。一方で、社員が知りたいのはそれだけではないでしょう。別の問い、「この会社で働き続けたら、自分は何ができるようになり、どこまで行けるのか」です。

金額だけを上げても、この後者の問いには何も答えられません。上げた瞬間は嬉しくても、先の見通しが描けなければ不安は残ります。そして、その不安を抱えたままいずれ他社と金額を比べはじめる。隣の会社が数万円高ければ、それが動く理由になりえます。

「給与で引き止めようとするほど、給与だけで会社を選ぶ社員を育ててしまう」、ということです。経営者は「上げた」と思っているが、社員は「この先は?」と思うようになる。賃上げだけでは、両者の見ているものがずれてくるのです。

給与は、先に決めるものではない

では、どうするか。順番を変える、という手があります。給与を最初に単独で決めるのではなく、「必要なものを示していった結果として、支払う金額」とするのです。

ぜひ示して頂きたいのは、社員1人ひとりが歩む道筋、つまりキャリアプランです。この会社で何年働くと、どんな力が身につき、どんな役割を任され、いまどの段階にいるのか。それを一枚の絵として見える状態にします。

その道筋の上に、評価が乗ります。評価というとどうしても点数をつけること、と考えてしまいますが、「あなたは今この段階にいる」と現在地を示すことも大切なことです。そして給与は、その道筋と現在地に対応する形で決まります。すると給与は「なんとなくこのくらい」ではなく、「この段階にいるから、この額」という説明のつくものになります。

逆説的かもしれませんが、給与ありきではなく、給与の話を最後に回した会社のほうが、社員は給与に納得します。先に道筋を見せられているから、その金額がどこから来たのかがわかる。順番を入れ替えるだけで、同じ額でも持つ意味が変わるのです。

道筋を描くことは、採用にも返ってくる

この順番には、採用面での手応えもあります。道筋が見える会社は、採用の場でも強い。「入社して数年でこうなれる」と示せる会社と、「がんばれば上がる」としか言えない会社とでは、応募者に与える安心感が違います。人手不足が続く今、この差は小さくありません。

逆に、道筋を描かないまま給与だけを競えば、終わりのない賃上げ競争に進むことになります。原資には限りがあり、上げ続けられなくなった瞬間、引き止められる理由が失われます。

賃上げそのものを否定しているのではなく、順番が大切だということです。まず、社員がこの会社で歩む道筋を言葉にする。次に、その上の現在地を評価で示す。最後に、それに見合う給与が支払われる。給与は、経営を「かたち」にする一連の流れの、出口にあるものです。出口の数字だけを動かしても、社員の納得や定着にはつながりません。

あなたの会社の「賃上げ」は、かたちになっていますか?

  • 自社の社員に「この会社で3年働くと、何ができるようになるか」を具体的に示せますか?
  • 一人ひとりの給与を、「この段階にいるから、この額」と本人に説明できますか?
  • 賃上げの額を、世間相場ではなく自社のキャリアの道筋に基づいて決められていますか?

すべてにYesと答えられる会社は、すでに賃上げが有効な経営ツールとして機能しています。

手が止まった問いがあった方は、自社で働く魅力・将来像を可視化することから始めるとよいかもしれません。

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専門家インタビュー(外部サイト)

著者プロフィール

トラスタライズ総研株式会社
代表取締役 池尻直人

社外経営企画室長・経営企画パートナー
独自の「トラスタライズ手法」を用いて、見えない信用や信頼を、目に見えるカタチに変え、対価へと変えることで多くの経営者から注目を集めている。企業経営において社会・顧客双方の価値の創出が求められる時代にあって、顧客企業が持続的に成長し、信頼を築き上げていけるよう、経営企画機能を伴走型で提供している。

著者プロフィール

トラスタライズ総研株式会社
代表取締役 池尻直人

社外経営企画室長・経営企画パートナー
独自の「トラスタライズ手法」を用いて、見えない信用や信頼を、目に見えるカタチに変え、対価へと変えることで多くの経営者から注目を集めている。企業経営において社会・顧客双方の価値の創出が求められる時代にあって、顧客企業が持続的に成長し、信頼を築き上げていけるよう、経営企画機能を伴走型で提供している。

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