第117回 品質事故を防ぐ責任を誰に持たせるか ~現場と品質部門の役割分担~

品質事故を防ぐ責任は、品質部門に集めても、「みんなの責任」と唱えても、うまく機能しません。分けるべきは部署ではなく、「実行」と「検証」という責任です。
「品質管理の部門に、事故を防ぐ責任をもっとはっきり持たせるべきだと思うんですが・・・」
複数の現場を抱える製造業の社長から、こうした相談を受けることがあります。品質管理の担当者は定期的に現場を巡回し、危ない箇所を見つけては指摘している。ただ、次の巡回までに改善されたかどうかは、追い切れていない。その結果、指摘しっぱなしになっている気がするので、責任の所在をはっきりさせたい、というわけです。
一方で、同じ会社の役員からは別の意見が出たことがあります。「品質は品質部門だけの問題ではなく、会社全体の問題です。現場も含めて、みんなで取り組むべきではないですか」
どちらの言い分も、もっともに聞こえます。ところが、どちらに寄せても品質事故は減りません。責任をはっきりさせるための二つの答えが、どちらも責任の所在を曖昧にするからです。
「品質部門の責任」でも「全員の責任」でも、品質事故が減らない理由
品質部門に責任を集めると、何が起きるか。現場が「品質は品管の仕事」と考えるようになります。しかし、品質や安全は、検査室ではなく、作っている工程の中でしか作り込めません。検査で不良品を見つけることはできても、事故につながる行動をその場で止められるのは、手を動かしている本人だけです。つまり品質部門は、現場の行動を変える手立てを持たないまま、結果の責任だけを負うことになります。責任と権限が釣り合っていないので指摘は空回りし、巡回のたびに同じ指摘が繰り返されます。
では「全員の責任」ならよいかというと、こちらにも別の落とし穴があります。全員の責任は、放っておくと誰の責任でもなくなります。トラブルが起きたあと、原因を調べ、再発防止策を決め、それが定着するまで追いかける。この一連の仕事を最後まで担う人が決まっていなければ、「協力はします」と全員が言いながら、誰も最後まで走らない状態になります。
社長の案も役員の案も、半分は正しく、半分が欠けています。欠けているのは、部署の割り当てではなく、責任の中身を分ける視点です。
品質の責任は、「実行」と「検証」に分ける
品質・安全の責任は、中身を分けると二つあります。
一つは、実行の責任。決められた手順を守り、安全に作ること自体の責任です。これは現場から切り離せません。作っている本人が、品質と安全の最初の管理点だからです。この責任を品質部門に移すことは、そもそもできません。「みんなで取り組むべき」という役員の意見は、この実行の責任については正しいのです。
もう一つが、検証の責任。守るべき基準を決め、守られているかを確かめ、指摘した事項が直るまで追いかける責任です。こちらは逆に、現場から切り離した方が機能します。現場は日々、生産量や納期を追っています。同じ人に「効率も品質も」と求めるだけでは、忙しさが増したときに品質が後回しになります。手を抜くからではなく、優先順位がそういう構造になっているからです。生産の都合から独立した立場だからこそ、検証は妥協なく機能します。「品質部門に責任を」という社長の考えは、この検証の責任については正しいといえます。
もう一点、検証の責任には権限を添える必要があります。改善されるまで追いかける権限、看過できない状態なら工程や出荷を止める権限、経営者に直接報告するルート。これらがないまま責任だけを負わせると、冒頭の「指摘しっぱなし」に逆戻りします。
指摘を「出しっぱなし」にしない、再発防止の仕組み
責任の中身を分けたら、あとはそれを回す仕組みが必要です。検証する側が、すべての現場に張り付くことはできません。人を増やす前にできることが二つあります。
一つは、指摘を出しっぱなしにしない記録です。例えば、指摘事項・改善の担当・期限・進捗を一つの管理表にまとめ、進捗は現場側が記入し、検証側は記入内容を追いかける。現地に行かなくても、改善が止まっている場所は表の上で見えます。
もう一つは、濃淡です。すべての現場を同じ頻度で見るのではなく、トラブルの履歴や工程のリスクをもとに、重点的に巡回する現場と、記録の確認を中心にする現場を分けるのです。
そして現場の管理職には、「事故防止への協力」を役割として明文化しておきます。実行が守られていない持ち場があれば、フォローに入る。責任の所在は動かさないまま、「みんなで」を具体的な役割分担の言葉に落とすということです。
事故が起きてから「誰の責任だったのか」を探すのではなく、起きる前に、実行の責任と検証の責任がそれぞれ誰の手元にあるかを決めておく。この割り振りができると、品質を守る活動と生産を追う活動が、互いを邪魔せずに回るようになります。

あなたの会社では、品質・安全の責任の「中身」が決まっていますか?
- 品質や安全のトラブルが起きたとき、再発防止策が定着するまで追いかける担当が決まっていますか?
- 検証する側(品質部門など)の指摘が、その後改善されたかどうかを確かめる仕組みがありますか?
- 現場の管理職の役割に、品質・安全へどう関わるかが言葉になっていますか?
一つでも答えに詰まる問いがあれば、責任が「部署」で語られたまま、中身では分かれていないのかもしれません。まずは直近の指摘事項を一覧にして、それぞれに「実行するのは誰か、検証するのは誰か」を書き込んでみることが、最初の一歩になります。
当社では、中小企業の「社外経営企画パートナー」として、責任と権限の設計や、経営を回す仕組みづくりを社長と一緒に進めています。
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著者プロフィール
トラスタライズ総研株式会社
代表取締役 池尻直人
社外経営企画室長・経営企画パートナー。
独自の「トラスタライズ手法」を用いて、見えない信用や信頼を、目に見えるカタチに変え、対価へと変えることで多くの経営者から注目を集めている。企業経営において社会・顧客双方の価値の創出が求められる時代にあって、顧客企業が持続的に成長し、信頼を築き上げていけるよう、経営企画機能を伴走型で提供している。

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発売元:日本コンサルティング推進機構



