第119回 権限委譲が進まないのは、性格の問題ではない ~任せる前に、役割を定義する~

権限委譲が進まないのは性格の問題ではない~任せる前に、役割を定義する

任せていいと言っているのに、仕事が手放されない。権限委譲が進まない原因は、本人の性格や覚悟ではなく、「どこまでが誰の仕事か」が決まっていないことにあるのかもしれません。

「もっと任せていいんだよ、と言っているんですけどね。あの人、全部自分でやってしまうんですよ」

現場の責任者や古参の管理職について、社長からこうした話を聞くことがあります。優秀で、まじめで、仕事も速い。ただ、いつまで経っても仕事を手放さないので、本人は忙しいままですし、その下の人も育ちません。

こういうとき、その原因は本人の性格に求められがちです。責任感が強すぎる、心配性だ、プレイヤー気質が抜けない。だから打ち手も性格に向けられます。「もっと任せていいんだよ」と繰り返し声をかける。任せ方の研修を受けさせる。それでも、多くの場合、行動は変わりません。

実際のところ、変わらないのは本人が頑固だからとは限りません。

目次

仕事を抱え込む人は、「渡してはいけない」と思っている

抱え込んでいる本人の側に立ってみると、見え方は少し異なることがあります。例えば、ある現場の責任者を任されている場合にも、自分の役割について「現場のことを頼む」以上の説明は受けていない。どこまでが自分の仕事で、何を人に分担してよいのか、決まりはどこにもない。

このとき、まじめな人ほど自分の仕事を広めに解釈します。

「これを若手に頼んだら、負担を押し付けたことにならないか。そもそも責任者の自分がやるべき仕事のはずだ。自分がやった方が早いし、確実だし・・・」

こうして、目の前の仕事をすべて引き受けることが、その人なりの誠実な結論になってしまいます。

つまり、抱え込みは性格によるところもあるのですが、根本的には役割が定義されていないことの帰結なのです。どこまでが自分の仕事かが決まっていなければ、まずはすべてを自分の仕事とみなすのが、責任感のある人の自然な解釈ということです。

だから「もっと任せていいんだよ」という声かけだけでは、行動は変わりません。本人にとって抱え込みは正しい仕事の仕方であり、日々何とか回せてもいるからです。声をかけられた側は「ありがとうございます。でも大丈夫です」と答えて、これまで通りに働き続けます。

役職ごとの役割を明文化し、それを伝える研修を行った会社の例があります。研修後のアンケートで目立ったのは、「会社の求める役割が明確になった」という感想と並んで、「仕事を人に渡してはいけないと思っていたが、分担して回してよいと分かった」という声でした。「渡してはいけない」という思い込みは、本人の性格からではなく、役割が言葉になっていなかったことから生まれていたと考えられます。

権限委譲は、受け手の役割が決まって初めて進む

役割の定義には、もう一つの効果があります。仕事を受け取る側が、受け取れるようになることです。

思い切って仕事を頼んでみたら、相手に「それは私の仕事なんですか?」という顔をされた。こんな経験に心当たりのある方も多いでしょう。受け手の側も、自分の役割を知らされていなければ、頼まれた仕事が本来の分担なのか、単なる押し付けなのか、判断のしようがありません。そして頼んだ側は、相手の表情から「頼むべきではなかったか」と学習し、次からまた自分でやるようになります。

権限委譲というと、渡す側と受け手の一対一の問題に見えますが、俯瞰してみると、社長から管理職へ、管理職から現場の中堅へ、中堅から若手へと、何段も連なって起きるものです。どこか一段で受け手の役割が決まっていないと、そこで仕事は流れなくなり、上の誰かの手元に溜まります。管理職が抱え込んでいるように見えて、実はその下の役割が定義されていないことが原因だった、という場合もあるのです。先ほどの会社でも、責任者の役割を定義した研修の後に挙がった次の課題は、「では、その下の一般社員の役割はどうなのか」でした。

そう考えると、権限委譲を進めるためにまず着手すべきなのは、「任せなさい」という指示ではなく、役割の定義だということになります。そのポジションの人に果たしてほしいこと、その人が下に分担してよいこと、受け手となる人に担ってほしいことを、文書にして本人たちに伝える。全部署を一度に精緻に定義する必要はありません。仕事が集中して止まっている階層が見えているなら、まずその役職と、その一つ下の役割を言葉にする。それだけでも、渡す側は渡してよい根拠を持てますし、受け手も、頼まれた仕事を自分の仕事として引き受けられるようになります。

任せられない人を変えようとする前に、その人が置かれている状態を確かめてみてはいかがでしょうか。渡してよいという根拠も、受け取る側の役割も定まらないまま、「任せろ」とだけ言われている人は少なくないはずです。

権限委譲は、受け手の役割が決まって初めて進む

あなたの会社では、「任せる」の前に、役割が定義されていますか?

  • 仕事が集中して止まっている階層がどこか、見えていますか?
  • 仕事を抱え込んでいる人に、どこまでがその人の仕事かを文書で示せていますか?
  • その人が仕事を渡す相手の役割も、定義されていますか?

すべてにYesと言えなかった方は、権限委譲を本人の性格や意識の問題として扱っているのかもしれません。まずは、仕事が集中している役職を一つ選び、その役割と、仕事を渡す先の役割が言葉になっているかを確かめてみることが、最初の一歩になります。

当社では、中小企業の「社外経営企画パートナー」として、役割の定義や人事評価制度づくりを含めた「任せられる組織」の仕組みづくりを、社長と一緒に進めています。

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専門家インタビュー(外部サイト)

著者プロフィール

トラスタライズ総研株式会社
代表取締役 池尻直人

社外経営企画室長・経営企画パートナー
独自の「トラスタライズ手法」を用いて、見えない信用や信頼を、目に見えるカタチに変え、対価へと変えることで多くの経営者から注目を集めている。企業経営において社会・顧客双方の価値の創出が求められる時代にあって、顧客企業が持続的に成長し、信頼を築き上げていけるよう、経営企画機能を伴走型で提供している。

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