中間管理職を置いても、社長の負担が減らないのはなぜか──「任せる範囲」を決めているか

中間管理職を置いても、社長の負担が減らないのはなぜか──「任せる範囲」を決めているか

リーダーや課長を置いて権限を委ねたはずなのに、情報も判断も結局は自分に戻ってくる。その原因は、役職を「置いた」だけで、任せる中身が決まっていない/伝わっていないことにあるのかもしれません。

「課長を置いたんですけどね、結局、細かいことまで私に上がってくるんですよ」

承継して数年、組織を整えようと役職をつくった社長から、こうした話を聞きます。プレイヤーとして優秀な社員をリーダーに引き上げ、「あとは頼むよ」と任せた。ところが一年経っても、判断を仰ぐ連絡は減らない。それどころか、現場は中間を飛ばして直接、社長のところへ相談に来る。

役職をつくれば、そのぶん自分の仕事は軽くなるはずだった。なぜ、そうならないのでしょうか。

目次

「伝言役」になってしまう中間管理職

機能していない中間管理職は、たいてい「伝言役」になっています。上から来た決定を下に流し、下から来た報告を上に上げる。それ自体は仕事に見えますが、途中に判断が加わっていません。判断が挟まらないので、社長が下す判断の量は、役職を置く前と変わらない。むしろ一段経由するぶん、決定は遅くなります。

なぜ伝言役になるのか。これは誰か一人が悪いのではなく、三者の都合がかみ合って起きます。

社長は「任せた」つもりでいます。しかし任せたのは日々の作業であって、判断そのものではない。重要な決めごとは、やはり自分の手元に残している。

任された側は、どこまで自分で決めていいのかがわかりません。間違えて叱られるくらいなら、上に上げたほうが安全だと考える。だから何でもエスカレーションする。

そして現場は、どうせ最後は社長が決めると知っています。ならば中間を飛ばして直接聞いたほうが早い。こうして中間管理職は素通りされ、「いてもいなくても同じ」位置に固定されます。

三者ともまじめに動いているのに、結果として誰の負担も減らない。ここが、この問題のやっかいなところです。

役職を置くだけでは、判断は移譲されない

役職名をつけ、「リーダーだから取りまとめてくれ」と言う。多くの会社の権限委譲は、ここで止まっています。しかし、肩書きと「取りまとめて」という曖昧な言葉だけでは、その人は何を自分で決めていいのか判断できません。

社長の負担が減るのは、階層が一段増えたときではなく、これまで社長がしていた判断のいくつかが、その人の手元で完結するようになったときです。だとすれば、決めるべきは「誰を中間に置くか」よりも先に、「その人に、どの判断をどこまで委ねるか」です。

委ねるには、線引きが要ります。ここまでは自分の判断で決めてよい、ここから先は上げてくれ、という範囲をはっきりさせる。金額で区切ってもいい、内容で区切ってもいい。このあたりの仕組みが整っている会社では、「権限規定」のような形で明文化されています。とにかく「あなたが決めていい領域」を目に見える形にする。範囲が決まって初めて、任された人は上げずに決められるようになります。

そして、委ねるのは判断だけではありません。判断には間違いがつきものです。任せた範囲で部下が判断を誤ったとき、その責任を引き受けるのは委ねた側だ、という覚悟がなければ、任された人は結局こわくて決められない。権限を委ねるとは、その失敗の可能性まで引き受けるということです。

その役職は、何を加えているか

もう一つ考えておきたいのは、その中間ポジションが「何を足しているか」です。上の決定をそのまま下に伝えるだけなら、社長が全員に直接伝えても同じで、間に人を挟む意味はありません。

間に人を置く価値は、その人が伝達の途中で何かを足すところに生まれます。社長の方針を現場の言葉に翻訳する。複数の現場のばらばらな事情を突き合わせて調整する。軽い判断はその場でさばく。社長には直接言いにくい現場の本音を拾う。こうした働きがあるからこそ、経由させる意味が出てきます。

逆に言えば、これらを何も足していない役職は、置いても機能しません。もし自社の中間管理職が伝言役になっているとしたら、問い直すべきは本人の資質ではなく、「その人に何を足してほしいか」を伝えていない任せ方のほうかもしれません。中間管理職は、置けば育つものではなく、何を任せるかを決めたときにはじめて動きはじめます。

中間管理職は、何を任せるかを決めたときにはじめて動きはじめる

あなたの会社の中間管理職には、任せる中身が伝わっていますか?

  • 中間管理職に「ここまでは自分で決めてよい」という判断の範囲を、具体的に示していますか?
  • その範囲で部下が判断を誤ったとき、責任を引き受ける覚悟を、任せる相手に伝えていますか?
  • その役職が、伝達に何を足しているかを言葉にできますか?

一つでも答えに詰まる問いがあれば、いま任せているのは「作業」であって「判断」ではないのかもしれません。まずは、社長が手放してよい判断を一つ選び、その範囲を決めて委ねてみることが、中間管理職を働かせる第一歩になります。

当社では、中小企業の「社外経営企画室」として、権限委譲や組織の仕組みづくりを社長と一緒に手を動かしながら整えています。

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専門家インタビュー(外部サイト)

著者プロフィール

トラスタライズ総研株式会社
代表取締役 池尻直人

中小企業の「社外経営企画室」として、経営者の構想を経営計画・数字・組織・仕組みに落とし込み、実行と成果につなげる支援を行う。株式会社ブリヂストンで約16年間、商品企画・マーケティング・品質・環境・経営戦略・新規事業などを経験。独立後は中小企業を中心に50社以上の経営支援に携わってきた。中小企業診断士、米国公認会計士(ワシントン州)

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トラスタライズ総研株式会社
代表取締役 池尻直人

中小企業の「社外経営企画室」として、経営者の構想を経営計画・数字・組織・仕組みに落とし込み、実行と成果につなげる支援を行う。株式会社ブリヂストンで約16年間、商品企画・マーケティング・品質・環境・経営戦略・新規事業などを経験。独立後は中小企業を中心に50社以上の経営支援に携わってきた。中小企業診断士、米国公認会計士(ワシントン州)

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