第118回 部門間の連携がうまくいかない、本当の理由 ~社内の「遠慮」が組織の足かせになるとき~

部門間の連携不足の原因は、仲の悪さやコミュニケーション能力にあるとは限りません。お互いの遠慮が、裏で大きな摩擦になっていることがあります。
「うちは、部門同士の仲が悪いわけではないんです。みんな大人ですし、会議で揉めることもそれほどありません。でも、どうも連携が取れていないことがありまして・・・」
こうした悩みを持つ会社の、普段の様子を見せて頂くと、たしかに雰囲気は悪くありません。会議は穏やかで、誰かの提案に強く反対する人もいない。一見、チームワークがあるようで、部門をまたぐ仕事になると急につまづいてしまう。
例えば、営業が受けてきた案件の条件に対し、納期の直前になって急に製造が対応できないと言ったり、本社で決めた新しい取り組みが、現場に届いてから「今の時期には無理だ」と止まってしまったりといった具合です。
特に部門の仲が悪いというわけではないのに連携できないとすれば、部門と部門の間にあるのは対立ではありません。「遠慮」です。
遠慮により回避されるのは、衝突ではなく「相談」である
組織間の連携における「遠慮」は、当事者に悪意がなく、しかも表立って見えないことから、非常に問題の解決を難しくします。本社側の部門は「現場のことに口を出したら、素人が何を言うかと思われる」と考えて黙る。現場を預かる部門は「向こうの領分に注文をつけたら、非協力的だと思われる」と考えて黙る。営業と製造の間でも、本社と店舗の間でも、構図は同じです。どちらも相手を尊重しているつもりなのですが、沈黙は相手からそのままには見えません。
口を出さなければ「関心がない」と思われてしまいそうだけれども、注文をつけたら角が立つ。そんなことを考えながら、当たり障りのない質問でお茶を濁す。こんなケースに思い当たるフシはないでしょうか。「遠慮」が定着してしまった組織では、組織間でのコミュニケーションが表向きだけ図られながら、本質的に議論すべき内容が抜け落ちていきます。
一方で、仕事自体は止まりません。一応決めるべきことは決まり、施策は動いていきます。しかし、本当に実行できるか、時期は適切か、もっと良いやり方はないか、現場に無理はないか等、予め議論をつくしておけば選択肢の拡大やリスクの軽減ができたはずなのですが、一時の遠慮によってそれがなされなかったとすれば、いずれどこかでそのツケを払うことになります。
遠慮は、衝突をなくしません。衝突の場所を移すだけです。決める前に交わされていれば小さな調整で済んだはずの意見の食い違いが、実行が始まった現場では、やり直しのきかない摩擦になって現れます。会議の場で言われなかった一言の何倍もの苦情が、あとから現場で言われることになるのです。
組織間で会議をしていないわけではありません。部門の責任者が顔を合わせる定例の場は、多くの会社にあります。ただ、そこで交わされるのが報告だけで、その内容に踏み込んだ議論を「遠慮」する空気感が蔓延る限り、会議の場では「共有した」という事実が残るだけです。詰めるべきことが詰まっておらず、相談もなされないまま、後の火消しに追われることになります。
「相談しやすい雰囲気づくり」では解決しない理由
経営者としては、こうした状況に気づくと「もっと気軽に相談し合おう」「風通しをよくしよう」と呼びかけたくなるでしょう。しかし、こうした呼びかけでは遠慮はなかなか無くなりません。理由は2つあります。
1つは、遠慮が各人にとって合理的な自己防衛だからです。口を出して煙たがられるリスクと、黙っていて咎められないことを比べれば、黙る方が安全です。個人の損得の構造が変わらないまま「気軽に」と言われても、行動は変えにくいものです。
もう1つは、対等な関係では相談そのものが起きにくくなるからです。相談には、聞く側と教わる側という一時的な役割の差が要ります。上司と部下、育てる側と育てられる側の間なら、「教えてください」は割と自然に言えます。ところが対等な立場、組織長同士では、これがなかなか難しいケースがあるようです。相談・お願いは、自分の力不足の表明に見えかねないためです。当然、そんなものは気にせず相談をした方が会社としては良いに決まっているのですが、個々人の立場ではプライドが許さずできない、といったことも実態としては存在します。
だから、連携や相談は組織の雰囲気や個々人の善意に任せず、できるだけ決定の手順に組み込むことをおすすめします。
例えば、他部門に関わる決定は、決める前にその部門の意見を聞くことを、決裁の条件にする、といった具合です。聞く中身は、実行の負担、時期の調整、リソースの利用可否、代替案の有無、などがありえますが、具体的にリストアップしておくことでも、状況に応じて考えることでも構いません。大事なのは、決まる前に聞く・相談するというステップが、必要な手順として明確化されていることです。相談が必須の手順なのであれば、声をかけることは出過ぎた真似ではなくなり、質問・提言をしたからといって変に思われる可能性も低くなります。その結果、「遠慮」の介在する余地そのものが減るのです。
あわせて、組織間の会議において、報告とは別の枠を設け、「他部門(特に現場)に関わりそうなもの」を可視化・共有することも有効です。こうした場を定例化しておくと、相談のきっかけが個人の勇気に影響されず、組織のリズムとして組み込まれていくでしょう。
「遠慮」という概念自体は、いかにも日本的なものですが、すべてを組織から排除する必要はありません。個人と個人の間の礼儀としての遠慮は、大切にしてもよいでしょう。ただし、組織としての意思決定や施策に遠慮が介在すると、目に見えない潜伏期間を経て、現場の混乱や手戻りという形で跳ね返ってきてしまいます。必要な確認は遠慮せずする、ということを仕組みとして明確化すれば、こうしたリスクを軽減することにつながるでしょう。

あなたの会社では、「決める前の相談」が手順になっていますか?
- 他部門に関わることを決める前に、その部門の意見を聞くステップがありますか?
- 部門長が集まる会議で、報告だけでなく、決まる前の施策についての相談が交わされていますか?
- 部門を越えて意見を言っても角が立たない、という実感が社内にありますか?
すべてにYesと言えなかった方は、部門間の連携不足を「仲」や「性格」の問題として扱っているうちに、遠慮がコストに変わっているのかもしれません。まずは直近の決定を一つ選び、決まる前に、関わる部門への相談があったかを振り返ってみることが、最初の一歩になります。
当社では、中小企業の「社外経営企画パートナー」として、部門をまたぐ意思決定の手順づくりや、経営会議の運営設計を社長と一緒に進めています。
ご関心のある方は、メールマガジンで関連するヒントを定期的にお届けしています。

著者プロフィール
トラスタライズ総研株式会社
代表取締役 池尻直人
社外経営企画室長・経営企画パートナー。
独自の「トラスタライズ手法」を用いて、見えない信用や信頼を、目に見えるカタチに変え、対価へと変えることで多くの経営者から注目を集めている。企業経営において社会・顧客双方の価値の創出が求められる時代にあって、顧客企業が持続的に成長し、信頼を築き上げていけるよう、経営企画機能を伴走型で提供している。

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発売元:日本コンサルティング推進機構



