中期経営計画書は、どうまとめる? ~発表・部署の計画・金融機関への説明まで使える一冊に~

中期経営計画書は、どうまとめる?

中期経営計画書の構成は、使う場面に応じて決めます。社員への発表、部署ごとの進捗管理、取引先・金融機関への説明など、用途に応じてまとめます。

「銀行に出す分と、社員に見せる分は、別々に作った方がいいでしょうか」

中期経営計画づくりの終盤、中身がおおむね固まった頃に、こうしたご相談を受けたことがあります。

ありたい姿を描き、重点課題を絞り、施策の担当と時期を決め、数字も確かめた。あとは計画書としてまとめるだけ、という段階です。ところが、いざ形にしようとすると迷いが出てきます。ひな形に沿って項目を埋めればよいのか、金融機関に出す事業計画書の体裁に合わせるべきか、社員が読んで分かることを重視するのか・・・

前回のコラムでは、施策を任せられる人がいないときの考え方を取り上げました。今回は、施策と担当まで決まった計画を、どのような考えのもと計画書にまとめていくべきかを考えてみましょう。

目次

中期経営計画書の構成は、使う場面から決める

中期経営計画書のひな形や作成例には、経営理念、外部環境と内部環境、基本方針、施策、数値計画といった項目が並んでいます。どれも計画に欠かせない要素で、ひな形に沿えば項目の抜けは防げます。

ただ、計画書は、作っている間よりも、できた後に開かれる回数の方がずっと多いものです。さらにいえば、開かれる回数が少ない計画ではそもそも作る意味もありません。

発表会で社員に示し、各部署が自分たちの実行計画に落とし込み、毎月の会議で進み具合を確かめ、取引先や金融機関にも説明する。項目がそろっていても、こうした場面で必要なページがすぐに開けなければ、計画書は発表の日を最後に、棚にしまわれたまま忘れ去られていきます。

そうならないようにするために、計画書の構成は、できた後に使う場面から考えるのがおすすめです。例えば、次のような形です。

使う場面 必要になるページ
社員への発表 社長のメッセージ、計画全体を1ページで見渡せる全体像、社員への期待
部署ごとの計画と毎月の会議 方針ごとの施策の一覧(何を・いつまでに・誰が)
金融機関への説明 年ごとの数値目標と、投資・資金の見通し

当社が計画づくりをご支援したある製造業の会社では、計画書を、従業員へのメッセージ、計画全体像(サマリー)、3年後に目指す姿、外部環境と内部環境、5つの基本方針、方針ごとの施策の一覧、数値目標、社員への期待、という順にまとめました。

最初の数ページで、社長がなぜこの計画を立てたのか、会社がどこへ向かうのかを従業員にわかりやすく語り掛けます。続く計画全体像のページには、環境の見立て、経営理念、目指す姿、5つの方針、年ごとの売上と利益の目標を1枚に収め、このページだけで計画の筋を追えるようにしました。施策の一覧には、方針ごとに中項目と具体的な取り組み、実施時期、担当を書いています。実施時期は「検討・着手」「仕組み化」「定着」と年ごとの段階で示し、3年間の進め方が分かるようにしました。

この施策の一覧は、そのまま部署ごとの計画の元になります。各部署は、自分たちが担当する取り組みを一覧から抜き出し、誰がいつやるかを書き加えれば、計画を立て始められます。毎月の会議でも、この一覧を見れば何を確かめればよいかが分かります。

社員に向けたページは、社長の言葉と社内の言葉で書く

計画書の中身として、ひな形にあるような内容ももちろん大事です。しかしそれと同じように、社長から従業員に向けてのメッセージなど、想いを力強く伝えるページも重要な意味を持ちます。この部分を、ひな形の言葉や支援者の言葉のまま、最近ではAIの出力のまま書いてしまうと、従業員にとっては「どこかで聞いたような話」になりがちで、計画に込めた思いや熱量が伝わりません。

先ほどの会社では、この社長のメッセージを、社長がふだん従業員に話していることをもとに組み立てました。年の初めに掲げている言葉や、一人ひとりが自分の役割を果たしながら全員で同じゴールを目指すチームでありたい、といった、日頃から口にしていた考えを、中期経営計画の発表を機に改めてまとめなおしました。明らかに社長自身の言葉であることがわかる内容になっており、これを読めば従業員には、その計画がまさに自分の会社の話であることが伝わりやすくなります。

計画書の中の言葉も、社内で通じるものに徹底的に直していきました。例えば、「経営基盤」や「KPI」といった言葉は、よく使われるものではあるものの社内ではなじみが薄いと考え、「運営」や「管理指標」といった言葉に調整しました。また、計画書の最後に「社員への期待」のページを設け、本文で重ねてきた考えを、短い言葉三つにまとめ直しました。

外部環境のページでは、伝え方にも気を配りました。人手不足やコストの上昇といった厳しい見通しばかりを並べると、社員の不安を大きくしかねません。この会社では、自社の仕事が今後も求められ続ける根拠もあわせて示し、厳しさと安心感の両方が伝わるようにしたのです。

数字は一つにそろえ、厳しい年もそのまま書く

計画書をまとめる段階で、迷いやすいのが、「厳しい」数字の扱い方です。足元の業績が苦しいとき、それを社員に見せてよいのか。金融機関向けと社内向けで、見せる数字を変えた方がよいのではないか、といった具合です。

先ほどの会社でも、その期末では営業利益がマイナスになる見込みでした。社長にとっては、社員に苦労をかけてきたなかで、言いにくい数字です。それでも計画書には、その数字をそのまま載せることにしました。

見せる数字を過度に隠したり変えたりすると、実態が伝わりにくくなり、社長と従業員が同じ土俵に立てなくなります。また、同じ情報を前提にしていないので、いずれ食い違いも出てきます。社員が金融機関向けの資料や決算書などを目にすることもありえますし、いずれにせよ1年目の実績が出た時点で、結果を共有する必要は出てきます。そうなれば、厳しい数字そのものより、計画全体が信用されなくなることの方が痛手になるでしょう。

厳しい数字を載せるときは、どの施策で、何年目に、どう利益を増やしていくかを同じページで並べて示すことが大切です。この会社の計画書の全体像のページでも、直近の期の数字の隣に、3年間で売上と利益率を高めていく目標と、それを支える5つの方針を置きました。このようにしておけば、発表の場でも、「今は厳しい。だから、こうやって利益を増やしていく」という前向きな話として伝えられます。

もちろん、一冊にまとめようとすると、ページ数は増えます。発表会ですべてを話す時間はありませんし、取引先や金融機関などに、販売計画や資金繰りといった個別テーマでの詳しい資料を求められれば、詳細ページとして用意する必要もあるでしょう。それでも、元になる計画書を一冊に定めておけば、大きな考え方を会社として定めることができるので、相手によって数字や言葉がぶれずに済みます。資料を何種類も作り分けるより、重要な領域を網羅的にカバーした、「中期経営計画」という一冊を作る方が、成果につなげるうえでは効果的だと筆者は考えています。

中期経営計画書は一冊にまとめる

自社の中期経営計画書について、次の点を確かめてみてください。

  • 発表、部署ごとの計画、金融機関への説明といった、できた後に使う場面を考えてページを組み立てているか
  • 社長のメッセージや施策の説明が、社員がふだん使っている言葉で書かれているか
  • 社員に示す数字と外部に示す数字が、整合性のとれたものになっているか

すべてにYesと言えなかった場合は、計画書を使う場面を書き出し、それぞれの場面でどのページを開くかを確かめてみてはいかがでしょうか。開くページが決まらない場面があれば、そこに足りないページが見えてきます。

当社では、ありたい姿の具体化から重点課題、アクションプラン、数値計画、運用開始までを一緒に進めています。進め方は、中期経営計画実装100日プログラムでご紹介しています。

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専門家インタビュー(外部サイト)

著者プロフィール

トラスタライズ総研株式会社
代表取締役 池尻直人

中小企業の「社外経営企画室」として、経営者の構想を経営計画・数字・組織・仕組みに落とし込み、実行と成果につなげる支援を行う。株式会社ブリヂストンで約16年間、商品企画・マーケティング・品質・環境・経営戦略・新規事業などを経験。独立後は中小企業を中心に50社以上の経営支援に携わってきた。中小企業診断士、米国公認会計士(ワシントン州)

著者プロフィール

トラスタライズ総研株式会社
代表取締役 池尻直人

中小企業の「社外経営企画室」として、経営者の構想を経営計画・数字・組織・仕組みに落とし込み、実行と成果につなげる支援を行う。株式会社ブリヂストンで約16年間、商品企画・マーケティング・品質・環境・経営戦略・新規事業などを経験。独立後は中小企業を中心に50社以上の経営支援に携わってきた。中小企業診断士、米国公認会計士(ワシントン州)

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