中期経営計画の施策を、任せられる人がいないときは? ~担当できる人がそろう時期から、施策の順番を決める~

中期経営計画の施策を任せられる人がいないときは、人をそろえることを施策に加え、そろう時期から本来の施策を組み立てます。
「やるべきことは分かっているんです。ただ、任せられる人がいなくて・・・」
中期経営計画づくりが数値計画まで進み、施策ごとに担当を決めていく段階で、経営者から伺うことの多い言葉です。
数字に置いてみて、施策の中身や時期はかなり固まってきた。あとは、それぞれの施策を誰が進めるかを決めれば、計画書にまとめられる。ところが、いざ担当を書き込もうとすると、名前の入らない施策が残ります。今いる社員はそれぞれ日々の仕事で手一杯で、新しい仕組みづくりを任せられそうな人が思い当たらない。
前回のコラムでは、アクションプランで決めた施策を数値計画につなげ、計画として成り立つかを確かめる考え方を取り上げました。その次の段階で、担当の決まらない施策が残ったとき、どのように扱えばよいのでしょうか。
「任せられる人がいない」の中身を見分ける
担当の決まらない施策を前にすると、手の空いていそうな人に任せる、今回の計画では見送る、社長が自分で引き受ける、といった手が思い浮かびます。
ただ、経験のない人に日常業務を抱えたまま任せれば、手が回らないまま放置されることになりがちです。見送った課題は、次に計画を見直すときにも、同じ理由で残り続けるかもしれません。社長が引き受ければ計画書の欄は埋まりますが、日々の判断や取引先への対応に追われるなかで、どうしても後回しになっていきます。
どの対応を選ぶにしても、その前に、「任せられる人がいない」とは何が足りないのかを見分けておくと、打ち手を選びやすくなります。経営者の方のお話を伺っていると、その中身は大きく二つに分かれるように思います。
一つは、任せられる力を持つ人はいるものの、日々の仕事で手一杯で、新しい施策に割く時間がない場合です。このときは、その人の今の仕事の一部をほかの人に移す、やり方を見直して手間を減らす、といった手当てを一緒に計画に入れれば、担当を任せられる見込みが立ちます。
もう一つは、その施策に必要な経験や力を持つ人が、そもそも社内にいない場合です。新しい仕組みを立ち上げる仕事には、日々の仕事を確実に回す力とは別に、やり方を決め、周りを巻き込んで定着させていく経験が要ります。今いる社員がどれほど優秀でも、経験のない仕事を、日常業務と並行して一から立ち上げるのは簡単ではありません。
中期経営計画の重点課題には、必要だと分かっていながら、これまで手をつけられなかったことが多く含まれます。手をつけられなかった理由が担える人がいなかったことにあるのなら、重要な施策ほど、必要な経験を持つ人が社内にいないことが多いのも、無理のないことでしょう。
採用・育成・外部の力で、担当できる人をそろえる
必要な経験を持つ人が社内にいない施策には、担当できる人をそろえること自体を、一つの施策として計画に入れる方法があります。そろえ方には、外から採用する、社内で育てる、外部の専門家や会社の力を借りる、といった選択肢があります。社内で育てる仕組みと採用の関係は、第120回のコラムでも取り上げました。
人が足りないことの多い中小企業では、多くの施策が同じ壁に当たります。営業、生産、品質と、事業の施策を一つずつ詰めていくと、最後はその仕事を担う人をどうそろえるかの話に行き着くことが少なくありません。そのため中小企業の中期経営計画は、往々にして、人員計画・人材育成計画の側面が強くなります。
当社が計画づくりをご支援したある製造業の会社では、営業の仕組みを整えることが重点課題の一つでした。案件ごとの売上の管理や、提案の内容と成果の共有など、手をつけたいことははっきりしていました。しかし営業の社員は見積もりなどの業務に追われており、仕組みづくりや管理を主体的に担える人がいませんでした。
そこで、求める人材を二つに分けて考えました。一つは、顧客を回って提案できる、現場で動ける人。もう一つは、営業の仕組みを整え、メンバーを管理できる人です。この会社では、まず現場で動ける人を採用し、その次に管理を担える人を採用する順番にしました。求人を出しても応募が集まりにくい状況だったため、人材紹介会社や同業者のつながりなど、複数の経路で探すことも計画に書き込んでいます。
外部の力を借りる方法は、専門性の高い仕事や、仕組みが立ち上がるまでの一定期間だけ必要な仕事に向いています。こうした仕事は、社員を採って育てるより、外部の専門家や会社に任せた方が早く進み、費用の見通しも立てやすいことがあります。この会社でも、生産現場の指導については、外部のアドバイザーに引き続き入ってもらう形を計画に残しました。
外部に任せる場合も、社内で誰がその仕事を受け止めるのかを決めておけば、契約が終わった後も、そのやり方を会社に残すこともできます。
施策から逆算して必要な人を考えると、どのような役割の人を、何人、いつまでにそろえるかが具体的になります。採用する人に担ってもらう役割が計画に書かれていれば、面接で何を確かめればよいかもはっきりします。
採用や育成、外部への依頼には費用がかかります。採用にかかる費用や、人が増えた後の人件費、外部への委託費を数値計画に反映しておけば、人をそろえることが利益やお金の出入りにどう響くかも確かめられます。
人がそろう時期から、施策を始める順番を決める
人をそろえる施策を計画に入れたら、本来の施策をいつ始めるかを決めます。
先ほどの会社では、営業の人材の採用に半年から1年はかかると見込みました。そのため、1年目は採用に力を注ぎ、営業の管理や業務の効率化は2年目から進める計画にしています。外注先の管理も、担える人がいないことが課題でした。こちらは、1年目に担当できる人を見つけ、2年目に管理の仕組みをつくり、3年目に実行に移すという、3年がかりの計画にしました。
人がそろうまでの期間に、何もしないわけではありません。この会社では、外注先ごとの得意分野や品質の情報が、担当者の頭の中にしかないことも分かりました。こうした情報を記録し、外注先を評価できる形に整えておくことは、今いる人でも進められます。準備を先に進めておけば、担当者が決まったときに、すぐに仕事に入れます。
こうして順番を組み直すと、1年目は人をそろえることが中心になり、課題そのものの解決はあまり進みません。その意味では、物足りない計画に見えるかもしれません。それでも、どの施策がいつ動き出すのかには、根拠を持てるようになります。
担当が決まらないまま全部の施策を1年目に並べると、1年目の終わりに多くの施策が手つかずで残り、社員からも「今回の計画も、結局進まなかった」と受け止められかねません。人がそろう時期から順番を決めた計画の方が、3年間を通して見れば、実現に近づくのではないでしょうか。
もちろん、採用が計画どおりに進むとは限りません。人がそろわなかった場合に、施策の時期をずらすのか、外部に任せる範囲を広げるのかを、あらかじめ考えておくとよいでしょう。

自社の中期経営計画について、次の点を確かめてみてください。
- 担当が決まらない施策について、足りないのが担当者の時間なのか、その仕事の経験なのかを見分けているか
- 担当できる人を、採用・育成・外部への依頼のどれでそろえるかを決め、時期と担当を決めた施策として計画に入れているか
- 人がそろうまでの期間を見込んで、本来の施策を始める時期を決めているか
すべてにYesと言えなかった場合は、担当の欄が空いている施策を書き出し、それぞれに必要な人と、その人をいつまでにそろえられるかを考えてみてはいかがでしょうか。施策を始める時期に根拠が持てれば、社員や金融機関に計画を説明するときにも、実現の道筋を示しやすくなります。
当社では、ありたい姿の具体化から重点課題、アクションプラン、数値計画、運用開始までを一緒に進めています。進め方は、中期経営計画実装100日プログラムでご紹介しています。

著者プロフィール
トラスタライズ総研株式会社
代表取締役 池尻直人
中小企業の「社外経営企画室」として、経営者の構想を経営計画・数字・組織・仕組みに落とし込み、実行と成果につなげる支援を行う。株式会社ブリヂストンで約16年間、商品企画・マーケティング・品質・環境・経営戦略・新規事業などを経験。独立後は中小企業を中心に50社以上の経営支援に携わってきた。中小企業診断士、米国公認会計士(ワシントン州)

著者プロフィール
トラスタライズ総研株式会社
代表取締役 池尻直人
中小企業の「社外経営企画室」として、経営者の構想を経営計画・数字・組織・仕組みに落とし込み、実行と成果につなげる支援を行う。株式会社ブリヂストンで約16年間、商品企画・マーケティング・品質・環境・経営戦略・新規事業などを経験。独立後は中小企業を中心に50社以上の経営支援に携わってきた。中小企業診断士、米国公認会計士(ワシントン州)

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価 格:¥2,200 (税込)
発売元:日本コンサルティング推進機構



