第112回 そのKPIは、本当に知りたいことを映しているか

掲げた指標の数字は悪くないのに、現場の実感と噛み合わない。そんなときは、その指標が「本当に知りたいこと」からずれているのかもしれません。
「顧客満足度のアンケートは、毎回とっていて、点数もそんなに悪くないんです。でも、それで本当に安心していいのかと言われると・・・」
ある経営者から、こんな話を伺いました。
数字の上では特に問題は見当たらない。けれど、実際には契約の打ち切りなども少なからず発生している。掲げている指標(KPI)と、知りたいことのあいだに、少しずれがある気がしている。そんなとき、違和感を感じてしまうことは多いでしょう。
指標を持つこと自体は良いことです。ただ、いったん決めた指標は、いつのまにか「測ること」が目的になりがちです。点数を出して、前月と比べ、大きくずれがなければそれで安心してしまう。けれど、その数字が何のためのものだったかは、忘れ去られてしまうことが少なくありません。
指標の置き方は会社によって違う
顧客満足度を追っていた冒頭の会社の場合、本当に知りたかったのは「顧客満足度の点数」そのものではありませんでした。取引先に、来年も再来年も選ばれ続けられるか。それが知りたいことの本質でした。
ところが、顧客満足度のアンケート結果と「選ばれ続けられるか」は、似ているようで同じではありませんでした。満足度が測っているのは、いわばお客様からどれだけ喜ばれたかの平均です。多くの取引先がそこそこ満足していれば、点数は高く出ます。
それで良いケースももちろんあります。一般のお客様を相手に、「また来たい」「人に薦めたい」と思ってもらえるかどうかが次の売上を作る事業なら、満足度や推奨度といった”加点”の指標は、知りたいことと密接につながります。
けれど、この会社は事情が違いました。相手は食品加工の企業で、一度任せれば何年も続く契約が中心で、平均的な満足というよりは、大きなミスや事故を、一度も起こさないことが、何よりも重視されます。見た目の満足度が高くても、重大な事故が一件あれば取引はそこで終わりますし、点数が飛び抜けて高くなくても、約束を守って淡々と続けていれば信頼は積み上がっていきます。
つまり、商売によって、効くのが「加点」(どれだけ喜ばれたか)なのか、「減点を出さないこと」(致命的なミスをしないか)なのかが変わるということです。この会社は、後者が重視される世界にいながら、満足度という加点の指標だけを見ていた。だから、足元で減点が起きていても気づきにくかったのです。

この会社の場合、何を見ればよかったのか
では、知りたいことの本質、上記のケースでは「取引先に選ばれ続けられるか」を知るには、何を見ればよかったのでしょうか。前の節で見たとおり、この会社で取引を左右するのは平均的な満足の高さではなく、致命的な一つのつまずきです。だとすれば、見るべきは「どれだけ喜ばれたか」ではなく、「取引を失う原因が出ていないか」のほうになります。
実際この会社は、満足度アンケートはそのまま残したうえで、新しく次のようなことを見はじめました。
- 信頼を損なう重大なミスやクレームが起きていないか
- 納期や提出物といった取引先との約束を守れているか
- 問題が起きたとき、「対応した」で終わらせず、相手の側で解決したと確認できるところまで見届けているか
- そしてそれが特定の担当者の頑張りに頼らず、誰がやっても抜けない形になっているか
どれも、喜ばれた度合いではなく、取引を失う原因が出ていないかを映すものです。より本質に近い指標を加える。たったそれだけのことで、足元の見え方は変わってきます。
同じ落とし穴は、どんな指標にもある
ここでの示唆は、顧客満足度に限ったものではありません。どんな指標でも、似たことが起こりえます。経営において指標を選ぶとき、測りやすいものから入るケースは多いです。もちろん、測れなければ意味がないですし、指標を追うこと自体に工数をかけすぎるのも好ましくないので、まずは身近なところから着手することは必ずしも悪いことではありません。
ですが、とりあえず測りやすいものから着手したことが忘れられ、やがてその指標を追うこと自体が目的になってしまうとそれは問題です。本当に知りたいことはたいてい測りにくく、「代わりの数字」を置いて、いつのまにかそれを本体と取り違えてしまう、ということはよく起こります。
たとえば、営業で「訪問件数」を追っている会社を考えてみてください。件数は数えやすい。けれど本当に知りたいのは、受注につながる商談ができているかのはずです。件数が増えても受注が増えないなら、その指標だけを追うことは目的からずれています。製造現場の稼働率も、人事の研修受講率も、事情は同じです。測れるから追っているだけで、何のために追うのかが抜け落ちていることは、案外多いものです。
このずれを防ぐには、指標を思いついた順に並べるのではなく、目的から逆にたどって選ぶのがよいでしょう。まず「何を知りたいのか」。次に「それが達成できないのは、どんなときか」。最後に「その兆候を、いまの指標は捉えているか」。これらの問いを定期的に立てることで、自社にとってより的確な指標を立てることにつながるでしょう。
もし指標がずれていたと気づいても、それは失敗ではありません。最初に決めた指標がいつまでも正しいと考えるほうが、むしろ不自然です。会社の状況も、知りたいことも、年々変わります。指標は一度決めて据え置くものではなく、目的とずれたら決め直してよいものです。決め直せること自体が、目的を見失っていない証でもあります。
いま自社で追っている指標を、一つ思い浮かべてみてください。その数字が満点になったとして、それでも自社がいちばん恐れている事態は、起こりうるでしょうか。もし「起こりうる」と感じるなら、測っているものと知りたいことのあいだに、ずれが生まれているのかもしれません。
あなたの会社の指標は、知りたいことを映していますか?
□ 追っている指標は良くても、取引や信頼を失う事態は起こりうると感じる
□ その指標を「何のために追っているのか」を、すぐには説明できない
□ 一度決めた指標を、状況が変わっても見直さないまま使い続けている
1つでも当てはまったなら、指標そのものではなく、指標と目的のつながりを問い直すタイミングかもしれません。


著者プロフィール
トラスタライズ総研株式会社
代表取締役 池尻直人
社外経営企画室長・経営企画パートナー。
独自の「トラスタライズ手法」を用いて、見えない信用や信頼を、目に見えるカタチに変え、対価へと変えることで多くの経営者から注目を集めている。企業経営において社会・顧客双方の価値の創出が求められる時代にあって、顧客企業が持続的に成長し、信頼を築き上げていけるよう、経営企画機能を伴走型で提供している。

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トラスタライズ総研株式会社
代表取締役 池尻直人
社外経営企画室長・経営企画パートナー。
独自の「トラスタライズ手法」を用いて、見えない信用や信頼を、目に見えるカタチに変え、対価へと変えることで多くの経営者から注目を集めている。企業経営において社会・顧客双方の価値の創出が求められる時代にあって、顧客企業が持続的に成長し、信頼を築き上げていけるよう、経営企画機能を伴走型で提供している。

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