第111回 「やりたいことが多すぎる経営者」への処方箋

「やりたいことが多すぎる経営者」への処方箋

やるべきことは山ほどあるのに、どれから手をつけるか決められない。そんなときには、逆算のアプローチを使うと考えが整理されるかもしれません。

「やりたいことは山ほどあるんです。でも、どこから手をつければいいか・・・」

経営の相談を受けていると、この言葉を聞くことがよくあります。

営業を強化したい。古くなった管理のやり方も変えたい。人の評価の仕組みも整えたいし、手狭になった現場も何とかしたい。広報にも手が回っていない・・・経営者の頭の中には、「やった方がいいこと」がいくつも並んでいます。

もちろんどれも大事です。やれば会社が良くなることもわかっている。ところが、全部を同時に進めることはできません。そして「どれから手をつけるか」を決めようとすると、これがなかなか決まらない。その間にちょっと急ぎの仕事が入ったりして、忘れてしまったまま数か月以上過ぎている。割とよくある悩みのようです。

目次

なぜ「全部大事」になってしまうのか

優先順位が決まらないのは、決断力の問題に見えて、そうではないことが多いと感じます。原因は、並べ方にあります。

やった方がいいことを書き出すと、たいてい「重要なことのリスト」ができあがります。しかし、重要なものばかりを集めて重要度で並べても、差はつきません。全部が重要なのだから、重要度だけでは順番が決まらない。文字で書いてみると当然のことです。

さらに、せっかく順番を決めても、緊急の仕事が入ればそれも崩れます。顧客対応、トラブル処理、資金繰り。「重要だが、今日でなくてもいいこと」は、「重要ではないが、今日やらなければいけないこと」に覆い隠されてしまうものです。優先順位とは名ばかりで、実際には締め切りの近い順に動いている。

それならばと、やることリストを作って片っ端から片付けようとしたりもします。それでこなせればよいのですが、現実には社長の時間は有限であり、なかなか解決には至りません。やること同士の連関も見えず、ただ力づくで取り組むだけでは、個々の施策の効果も限定的なものになってしまいます。

順番は「逆算」と「土台」で見えてくる

ではどうするか。ここではポイントを2つ、ご紹介します。

まず1つ目は、将来のある時点から逆算することです。手前にある施策同士を見比べても、優劣はつきにくい。けれど、「3年後、5年後、10年後に会社をどんな状態にしたいか」を先に決めると、少し道筋が見えてきます。その姿に到達するために欠かせないものと、今すぐでなくてもいいものが、分かれて見えてくる。近くを見ると全部大事に見えるが、遠くを見ると順番が見えてくるということがあるのです。ゴールが決まってはじめて、近道も見えてくるものです。

ただし、遠すぎる目標は曖昧になりやすい。「10年後に大きく成長する」では、今日の行動は決まりません。だからこそ、長い道のりを3年ごとのような区切りに分け、それぞれの到達点を決める。段階に分けて初めて、目標は「今やること」に落とし込むことができます。高すぎる目標を一度掲げて、結局動かないまま下ろした経験のある経営者は、少なくないはずです。

もうひとつのポイントは、施策の間にある順序を見ることです。やるべきことの中には、「これをやらないと、次が進まないもの」があります。たとえば、いくつもの施策を同時に動かそうとするなら、その進み具合を管理し、判断する場が先に要る。その土台がないまま個別の施策に飛びつくと、どれも中途半端に動いて止まります。重要度ではなく前後関係で見ると、「最初に置くべき1つ」が決まってきます。

優先順位とは、やらないことを決めること

逆算しても、土台を見極めても、最後にひとつ、避けて通れないことがあります。順番をつけるとは、「今はやらない」と決めたものを思い切って後回しにする、もしくはやめるということです。

優先順位を決められない経営者の多くは、本当はすべてをやりたいと思っています。だから順番をつけられない。けれど、全部を今やろうとする限り、優先順位は決まりません。「何をやるか」を決めることは、同時に「何を今はやらないか」を決めることでもあります。やらないと決めたものは、捨てるわけではありません。順番が来るまで、待ってもらうだけです。

やりたいことが多いのは、決して悪いことではありません。それだけ可能性があるということです。問題は数の多さではなく、その多さを前にして、選ぶ軸を持っているかどうかにあります。

頭の中にあるものを、まず全部書き出してみる。そのうえで、「これをやらないと次が進まない土台はどれか」「3年後の姿から見て、今でなくてもいいものはどれか」と問うてみる。それだけで、膨れ上がったやることリストをこなしていける可能性が見えはじめるかもしれません。

あなたの会社の「やることリスト」は、順番がついていますか?

□ やった方がいいことは挙げられるが、どれから手をつけるかが決まっていない

□ 順番を決めても、緊急の仕事に押されて後回しになる

□ 3年後・10年後のありたい姿から逆算して、今やることを選べていない

1つでも当てはまったなら、やることの多さではなく、優先順位を決める「軸」がまだ定まっていないサインかもしれません。

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著者プロフィール

トラスタライズ総研株式会社
代表取締役 池尻直人

社外経営企画室長・経営企画パートナー
独自の「トラスタライズ手法」を用いて、見えない信用や信頼を、目に見えるカタチに変え、対価へと変えることで多くの経営者から注目を集めている。企業経営において社会・顧客双方の価値の創出が求められる時代にあって、顧客企業が持続的に成長し、信頼を築き上げていけるよう、経営企画機能を伴走型で提供している。

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